>文章を速く大量に書けるコツはありませんか?
どのような種類の文章でしょうか。同じ新聞の紙面に掲載された同じ字数の文章でも、例えば記者が書いてきた長文の原稿を編集して記事にまとめると、新規に同じ字数のコラムを書き下ろすのとでは要領がまったく違うことは明らかです。
また、ペンで紙に手書きするのとパソコンを使うのとでも違います。手書きの場合は書き始める前に、ある程度全体の構造を考えていないと、収拾がつかずに途方に暮れるような事態になりかねません。しかし切り貼りが可能なデジタル機器を使用する場合は、個別に複数の部分を書いておいて、あとで組み立てるような方法も可能です。さらに定型的な文章の場合はよく使う部分はモジュール化して保管しておくこともできます。
文章化していないメモ書きをもとにした、電話による口述送稿(昔は歌舞伎にちなんで「勧進帳」と呼びました)などは、究極の「早く文章を(厳密に言えば頭の中で)書く方法」といえるかもしれません。将来は人工知能と組み合わせて、有力な「速く文章を作成する方法」の一つになる可能性もあります。
こうした違いを超えて、あえて文章を早く書く共通のコツと言えるものがあるとすれば、回答者の場合は文章を「二人で」書くということです。「二人」といっても、実際に他の人と合作するのではありません。心の中に文章の作者である「自分A」と、その文章の最初の読者であり、チェックをするデスク役でもある「自分B」が、「同時に」存在するようにするということです。
普通(時間に余裕がある場合)は、もちろんこのようなことをせず、文章を書き上げてからゆっくり読み返して推敲すればよいのですが、ここでは「早く書く」ので、書きながら推敲するのです。「推敲」の故事で言えば、「僧は推す月下の門」という詩句を得たあとで、「僧は敲く月下の門」に改めようかやめようか思い悩むのではなく、「僧は(推す/敲く)月下の門」というように(自分が後で分かるように)、迷った部分は選択肢というか複数の候補を残しておきます。
文章を完成させるまでには、その未定部分を確定する必要がありますが、その狭い部分だけに拘泥するとかえって大局や全体の流れを見誤ることもありますので、一部分で立ち止まらずに書き進みます。そして理想的には最後の部分を書き終えるまでに、すべての推敲を終了し、あとは誤字・脱字・「てにをは」などの最終的なチェックだけで済むようにします。こう書くと、何か特別なことをしているようですが、慣れれば自然にできます。
もちろん文章は早く書くことだけが求められているわけではなく、中身の重要性は言うまでもありません。ただ世の中には決められた締切時刻に間に合わせるために、「どうしても速く書かなければならない」性格の文章も存在します。その意味では、この文章を速く書く方法は、「何とか及第点の答案を試験時間内に書き上げる方法」のようなものです。