偏微分の幾何学的な意味については、教科書などに載っているだろうと思うので、物理的意味の例を挙げようかと思います。
長い鉄の棒を一本持ってきて、真ん中を熱します。温度がだんだん上がっていくと共に、その熱が棒を伝わって、熱していない所の温度も上がっていきますね。
熱し始めた時刻を0とします。棒の真ん中の位置を0とし、そこからx cmの箇所の時刻t秒における温度を
T(x,t)
と表したとしましょう。Tはxとtの関数である、という訳です。
T(x,t)を、xを固定してtだけの関数としてグラフを描いたものをイメージしてみてください。t=0以前は0で、tが大きくなるほど温度が上がっていきます。
今度はT(x,t)を、tを固定してxだけの関数としてグラフを描いたものをイメージしてみてください。x=0が一番温度が高く、左右ではだんだん温度が低くなっています。
さて、T(x,t)をtで偏微分したもの
∂T/∂t
もまたxとtの関数ですから、これを
Tt(x,t)
と表します。(括弧の前にあるtは下にさげて小さく書くのが本当です。)
Tt(x,t)は、「位置x、時刻tにおいて、温度が毎秒どれだけ上昇するか」を表しています。
一方、T(x,t)をxで偏微分したもの
∂T/∂x
もまたxとtの関数ですから、これを
Tx(x,t)
と表します。(括弧の前にあるxは下にさげて小さく書くのが本当です。)
Tx(x,t)は、「位置x、時刻tにおいて、温度が1cmあたりどれだけ違っているか」を表しています。これは「温度勾配」とも言います。時刻tをある時刻に固定してxだけに関する温度のグラフを描いたとき、その勾配がTx(x,t)というわけです。
熱が毎秒どれだけの量、棒に沿って伝わるかは、温度勾配に比例します。1cm辺りの温度の違いが大きいほど(温度のグラフが傾いている所ほど)、熱が沢山流れます。
温度勾配をさらにxで偏微分したもの
∂Tx/∂x
を
Txx(x,t)
と書き(括弧の前にあるxxは…もお分かってますよね。)これは「位置x、時刻tにおいて、温度勾配が1cmあたりどれだけ違っているか」を表しています。上記の温度のグラフで言えば、曲線の曲がりのきつさを示す訳ですね。
で、実はこれが「位置x、時刻tにおいて温度が毎秒どれだけ上昇するか」に等しいのです。Txx(x,t)が大きいと、熱が隣からよく伝わってくるけれど出て行きにくくて、温度が早く上がる訳です。
ですから、
Txx(x,t)=Tt(x,t)
という方程式が出来ます。これは偏微分方程式の一種で、熱方程式とか伝熱方程式と呼ばれ、熱の伝わり方の法則を表しています。
と、まあこういうふうに、物理学では偏微分は至る所に顔を出します。