戦前は、今と違って「これは正字だから使う、これは俗字だから使わない」などという制限がなかったので、今で言う「旧字」「新字」「俗字」が混在していて、どれが「広く使用されていた」字かを特定するのは難しいと思います。
第一、今でいう「旧字」が『康煕字典』に基づくものと規定されたのは、「新字」が作られた時(当用漢字制定時=戦後)ですから、戦前はどのような字体を使っても構わなかったわけです。
>「豊」・「万」・「塩」は戦前の文書(昭和10年頃)でも現在の字体と同じでした
とのことですが、私が学生時代によく使っていた昭和初期の書物では、「万」「豊」「塩」はマイナーで、主流は「萬」「豐」「鹽」でした。
同じ書物の中でも「萬」「万」が使い分けをしているわけでもなく混在している例もしばしばあります。
よく混在している例としては、「曾」「曽」なんかもあります。
けれど、「曽」の方が広く使われていた――とまでは言えないと思います。
今の新字(常用漢字)は、「正字」に対する「異体字」、つまり
「正字」を簡略化したもの
「行書」や「草書」を「楷書」ようにしたもの
など、いずれも古くから使われてきた字を「新字」として採用したものだと思います。
私は仕事柄、昭和・大正・明治をすっとばして江戸時代以前の版本や写本をよく見るのですが、今の「新字」の多くは版本の中で見たことがありますし、写本まで含めると、たぶん全部の字が使われていたと思います。
江戸時代に使われていたのですから、それがそのまま受け継がれて、明治・大正・昭和の活字本に使われていても、全く不思議ではありません(使用頻度がどのくらいかは別として)。
当用漢字を制定するにあたって、新たに創作した文字があるのかどうか、私はそこまでは分かりません。
昔の写本や版本などでは、様々な異体字、略字が存在しますから、「これは創作だろう」と思っても、実は昔から使われている略字だったりするかもしれないので、よほど多くの古書を調べ尽くしている人でないと、「これは絶対に創作だ!」と断言することはできないと思います。