No.1のJagar39です。各論の方を。
No.1で「セロトニン遺伝子」というものはない、と書きました。セロトニンを直接コードする遺伝子はない、という意味ですが。
セロトニンはトリプトファンというアミノ酸(もちろん食物として摂取する)から体内で合成されますが、これは化学反応ですから当然「酵素」が関与します。
つまり、セロトニン合成系に関わる酵素をコードする遺伝子はあるはずです。(調べれば判ると思いますが、これを書いている時点ではそこまで調べていません)
それは「セロトニン遺伝子」と呼べるかもしれないですね。実際に呼んでいるのかどうかは知りませんが。
他にセロトニン関連の遺伝子としては、セロトニン受容体遺伝子があります。
シナプスから放出されたセロトニンは、「伝達」されて初めて神経伝達物質です。つまりシナプスのもう片方の細胞(シナプス後細胞)に到達し、その受容体に結合して初めて「伝達された」ことになるわけです。
この受容体はタンパク質です。細胞表面に発現したタンパク質分子ですから、これは当然受容体を直接コードする遺伝子が存在します。つまりこれは「セロトニン受容体遺伝子」というわけです。
それとセロトニンやドーパミン等の神経伝達物質には、トランスポーターというタンパク質も関与しています。
このトランスポーターは、セロトニンを放出する側の細胞(シナプス前細胞)にあります。
分泌したセロトニンはシナプスの細胞間を漂っていて、その内のいくつかが受容体に結合するわけですが、当然"余ったセロトニン"が、時にはムダに漂っているわけです。
トランスポーターは、その余った(受容体に結合していない)セロトニンを吸収して再利用するために働いているそうです。
ですから、このトランスポーターはいわば「シナプス前細胞にある受容体」のようなものですから、やはりタンパク質分子で、つまり「セロトニントランスポーター遺伝子」なるものが存在します。
つまりセロトニン関係では、これまでにここで判っているだけでセロトニン合成酵素遺伝子、セロトニン受容体遺伝子、セロトニントランスポーター遺伝子の3つが関係している、というわけです。私が知らないだけで実際はもっとたくさんの遺伝子の関与が解明されているでしょう。
で、これらの遺伝子に多型性がある場合、性格への関与や精神疾患との関連が調べられたりするわけです。
多型性というのは耳慣れない言葉だと思いますが、簡単に言うと「この遺伝子は全員が同じ塩基配列(アミノ酸配列)」の場合は多型性がない、「いくつかのバリエーションがある」場合に多型性がある、と言います。
セロトニンに関しては、セロトニントランスポーターのプロモーター領域に多型性があるそうです。つまりいくつかのバリエーションかあるわけです。プロモーター領域というのは、No.1でちょっと触れたと思いますが、タンパク質をコードする遺伝子そのものではなく、その遺伝子の発現を調節する領域のことです。
多型性がある=いくつかのバリエーションがある、という場合は、そのタイプによって働き方が多少違ってくる場合があります。
セロトニントランスポーターのプロモーター領域に関しては、詳しいことは私は知らないのですが、トランスポーターの発現量が多すぎると再吸収されるセロトニンが多くなり、結果的にシナプスでのセロトニン濃度が下がってしまい(放出される端から再吸収されてしまう)、結果的にセロトニンによる伝達効率が低下する、という「タイプ」があるようですね。
セロトニンによる伝達が低いと、不安感や攻撃性の増大、といった情動への影響があるそうです。
ドーパミンにもそういった「性格への関与」は知られています。
ドーパミンの場合には受容体の遺伝子に多型性があるそうで、受容体の能力(ドーパミンとの結合しやすさ)に差がある、ということは判っています。
ドーパミンは報酬系、つまり何らかの行為の結果目的が達成されたりした場合の満足感に関与している伝達物質ですが(もちろん他にも多くの働き方がありますが)、受容体の結合能が低いと、普通の人と同じ満足感(同じ数のドーパミン受容)を得るためには、「より大きい刺激」が必要になる、というわけです。
なので、新しもの好きだったり冒険好きな人には、このドーパミン受容体のタイプの人が多い、という推測がされていて、実際にその通りの報告もあったりします。
ま、人の性格や情動は複雑怪奇ですから、「冒険好き」という性格は1つではありませんし、もちろんドーパミンだけがこの性格に関与しているわけでもありません。
なので、特にこういった脳内伝達物質に関しては実際に伝達系が動作している様子を観察することができませんし、全容を解明するのは現時点ではほとんど不可能にさえ思えます。
ただ、脳内伝達物質という物質群が存在し、それらの作用によって情動が左右されることは確実に判っています。
また、それらの脳内伝達物質の合成、分泌、伝達に数多くの遺伝子が関与していることも判っています。
それらの遺伝子に多型性があり、タイプによって働きが違う場合、それが人の性格や気質といったものに影響を与えない、と考える方が難しいでしょうね。
非常に複雑な話なので容易な表現で説明することが難しいのですが(セロトニンに関しては私自身も完全には理解していなかったりするので余計・・)、なんとか理解の助けになれば嬉しいです。
お礼
詳しくご説明していただき,ありがとうございました. 様々な遺伝子が関係しているんですね. 1つの遺伝子が1つの機能ではないんですね.