殆ど知られていなかった、バロック時代の
音楽家を採り上げ、創造の理念や発想の瞬間
を、芸術に捧げた生涯とその犠牲にならざる
を得なかった家族への想いに絡めて、
緻密な調査と簡潔な言葉で蘇らせた
パスカル・キニャールという作家がいます。
アラン・コルノー監督が惚れ込んで脚本を
依頼し、断った後にできたというその作品を
基に映画化したのが『めぐり逢う朝』で、
その音楽家自体の作品の再評価や再演までが
公開後一挙に進みました。
また、同じフランスの作家ですが、ジャン・
エシュノーズの『ラヴェル』は、膨大な資料
があるにも拘わらず、殆ど知られることの
なかった作曲家の内面に深く分け入り、
この作曲家にとっての音楽を記述しました。
キニャールには、この他『音楽のレッスン』
『音楽への憎しみ』、エシュノーズには、
『ピアノ・ソロ』という作品もあります。
バッハの頃に確立されたヴェルクマイスター
調律についての作品は、絵画芸術における
色彩と光学のように物理学的・哲学的な要素
もはらんでいますが、通奏低音のように
淡々と扱っているものに、ハンガリーの
タル・ベーラ監督の『ヴェルクマイスター・
ハーモニー』という映画があります。
脚本にも加わっているクラスナホルカイ・
ラースローの『抵抗の憂鬱』が原作とのこと。
イスマイル・カダレの『夢宮殿』にも
抑圧された民族の音楽が、重要な象徴的
モチーフとして記述されています。