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モンゴル史で登場する「部」についての解説
- モンゴル史に登場する「部」とはどのような意味なのか解説します。
- 「部」は政治的なまとまりを指すのか、それとも種族を指すのか気になるところです。
- 中国語での「部」の意味や英語への翻訳についても調べてみました。
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部とはひとくちにいえばグループといった意味ですなのですが、それを理解するには遊牧民族の生活パターンを理解しなければなりません。遊牧とはなんなのか。遊牧は定住しない牧畜なのです。牧畜ですからひつじや山羊や牛などの家畜を育て、その肉や乳を主食とするのです。牧畜そのものは現代日本でもあります。古代の中国でもあります。しかし現代日本でも古代の中国でも牧畜民は定住していました。それは日本も中国も土地が肥沃で一定の大きさの牧場に囲い込むことで家畜の食糧となる牧草が賄えるからです。そういう土地は何らかの事情で農耕には向かない。農耕に向いた土地は牧場にしないで農耕に使ったほうが食糧生産性が高いからです。農耕は出来ないけど、遊ばせておくのは勿体ない。例えば岩手県の小岩井農場です。土地が痩せていて稲作ができないのです。でも牧草は十分育つ。だから牛を飼うことはできるわけです。それに対して遊牧民族のテリトリーである中央アジアは冷涼で土地が痩せていて農耕が全く不可能なばかりか牧草すらろくに育たない土地なのです。牧場に囲い込んでも牧草が生えないので家畜を育てられないのです。ではどうするかというと国全体を牧場と見立てて、家畜が牧草を食べつくしてしまうと次の土地に移動し、また食べつくしてしまうと次の土地に移動し、といった繰り返しなのです。一人の指導者が号令をかけるわけです。「おーい、そろそろ食べつくしたから、そろそろ移動するぞ。皆準備せよ」そういう指導者の号令に従って、行動を共にしていた集団を『部』と呼ぶのです。彼ら自身がそう呼んだわけでなく、実際は農耕民族である漢民族がそう呼んでいたのです。さて、先ほど国全体といったけど明確な国境があるわけではない。誰も国境を警備していたわけでもないし、移動した後の土地を誰かが留守番していたわけでもないのです。だから土地を他の部に侵食されたり、いつの間にか奪われたりすることも度々起こりました。天候不順でわずかな牧草すら全然生えない時もありました。そういう時に「よし、仕方が無い。中国を襲撃して食べ物を奪いに行くぞ!」と指導者が号令をかけたわけです。そういうことが中国4000年の歴史に数限りなく起こったのです。だから中国は万里の長城を建設しました。ここから先は中国の領土だから遊牧民族は入ってきては駄目という仕組です。万里の長城には必ず警備の兵隊が置かれました。長城を無人にしてしまうと遊牧民族は乗り越えて入ってきてしまうからです。中国の王朝が衰えると長城に張り付いていた兵士が勝手に持ち場を離れてしまう。給料が支払われなくなって彼らが食べられなくなるからです。そういう時を狙って略奪を起すのが遊牧民族の指導者の役目でした。長城の警備が万全だと、返り討ちにあって部の成員が全滅してしまうのです。 そういう具合に漢民族としては度々襲撃や略奪にあっていたので遊牧民族の動向には注意を払っていました。どんな集団がいて、どんな指導者がいるのか偵察を怠りませんでした。だから、それが中国側の歴史書に記録が残っているのです。 ともかく、そんな風に行動を共にしていた集団を部と呼ぶのです。行動を共にしていたのだから、その成員は当然ながら文化、慣習、言語を共有していました。しかし文化、慣習、言語を共有していても必ずしも行動を共にしていたわけではありません。 それが基本パターンでしたが、時に極めて有能な指導者が現れて他の部を飲み込んで大きな集団になって組織化に成功することもあり、同時に強大な軍事力を持ったこともあります。その最たるものがモンゴル帝国です。モンゴル帝国は遊牧民族が支配階層となって農耕民族から税金を取り立てるという仕組です。そうなると、もう遊牧をしなくても生計が立てられるから遊牧民族といいながら一時的に遊牧を止めていた時期もあるのです。そうして遊牧を忘れてしまった遊牧民族もいます。英語でどう表現するかは知りません。英語文化圏がそのようなダイナミックな遊牧民族の歴史をどのように認識しているのかは私は知りません。 とりあえずここまでにしておきます。ダイナミックな遊牧民族の歴史が少しは見えてきたでしょうか。
お礼
詳しい説明をありがとうございました。 地名でも民族でもとらえられない、移動する遊牧民の社会ならではの概念と言えるでしょうね。 こうした概念について、なぜ中国語の「部」という言葉を使ったのかについては興味があります。また、英語に限らず、欧米における遊牧民史の本(あるいは翻訳書)でどのような言葉が当てられているのかも気になります。 自分でも調べてみますが、ご存じの方がおられたら、引き続きよろしくお願いします。