一口に論理と言っても多義的で、適用される領域ごとに固有の論理があるとか言われます。経済の論理とか永田町の論理とか。`It's your logic.'といった表現もありますね…。しかし、論理という概念の最も中核にあると考えられるのは、いわゆる論理学で研究されている論理です。言ってみれば、それに従わなければ思考そのものが成り立たなくなるような法則の集まりとしての論理です。矛盾してしまったら思考どころではなくなります。この意味で、物事は論理的に考えるべきなのは言うまでもないと思います。
ただ、人間は論理学の法則に完全に従って思考するわけではないです。基本的な論理法則はどれもシンプルですが、私達は自分が抱いている考えからの論理的帰結すべてを見通すことができません。そのため、頭の切れる人でもその人の考えていることを全て取り出したら何らかの不整合を通常は抱えているものです。
実際には、私達が何かのアイデアを人に説明するとき、自分が当のアイデアを思いついたときの順序で説明するわけでは必ずしもなく、多くの場合は再構成を施すものでしょう。そして、論理の強みはアイデアの説明や正当化といった作業において顕れます。アナロジーやこれまでの経験則を安易に適用したりする普段の思考から一歩退いて、どのような前提からどのような筋道で結論にたどり着けるのかを明示することで、議論は何人にも抗い難い説得力を獲得するのです。