まず、お断りして置きますが、「日本人が日本の映画を一字一句理解している」とはいいきれないと思います。たとえば時代劇で「膳部(ぜんぶ)をもて!」ですとか「御意(ぎょい)にございます」などは20台でも分からない人が多いでしょう。ただし、シチュエーションから理解できるはず。同様に、地方訛りが入ってくると、とたんに「一字一句の理解」は不能となりますが、これもネイティブの日本人なら前後から問題なく理解できるケースが大部分です。
同様に、英語のネイテゥブでも一字一句理解しているとは言い切れないでしょう。しかし、「ほとんど完璧に」理解しているといっていいと思います。『マイノリティー・リポート』クラスの映画であれば、「完全に」といってもでしょう。「重要な単語とか長い単語は区切ったり、大事な単語は強調してしゃべったりする」のは確かですが、それがごく普通の表現である場合、さらさらと早口で流すことも普通です。大事なセリフであっても、日常会話ではこんなふうになるでしょう?「がまんしろ。うえのーから、捜査をうちきえとゆーあつりょっがかかった」(我慢しろ。上のほうから、捜査を打ち切れという圧力がかかった)
わたしたちのように日本で英語を学んでいる人間から見れば、機関銃のようなセリフ回しでさえ、かれらには充分普通の早さなのです。『マイノリティー・リポート』も確かに聞き取りには苦労する場面が多いですが、かれらにはまったく問題のない台詞回しばかりでしょう。聞き取りの早さ、読書の早さに関しては、わたしたちには想像もできないほどのスピードをネイティブの人たちは身につけているのです。耳には「うちきえとゆー」と聞こえても、それが「捜査を」のあとにきたら「打ち切れという」のはずだ、と一瞬にして理解できるものなのです。
「同じスピードで日本語でしゃべられたら、多分聞き取れないだろう」とのことですが、日本語でも早口の台詞回しは、地域的に理解度が落ちてしまいます。江戸弁はどちらかというと早口な言語で、わたしは落語が好きなのですが、大好きな噺家の落語をテープに録音し、入院している友人に持っていったら「早すぎるし、ことばも違うから分からねぇ」と言われてしまったことがあります。
また、同じ「英語のネイテゥブ」といっても、国によっては筋を追うことすら難しく感じることばがあるようです。イングランドに行ったとき、ホストファミリーの息子とビデオでメル・ギブソン主演の米国刑事物をみていたら、「え? 何て言ったんだ? ぜんぜん分かんねーよ」と言われて、ハナからゼンゼン分からなかったわたしも、溜飲が下がったことがありました。米国刑事物なら当然、NYの俗語が多用されるせいでしょう。
プロ野球を見に行くと、観客席の脇をベースボールキャップをかぶった若者が、おなかの前にビール用の紙コップを載せた台をかかげて、声を張り上げています。「あー、ビーィいかーすっかぁー!」 これなど、わたしたちにはあたり前の表現ですが、何十年も日本語を勉強している外国人といえども、これは聞き取れないもの。実はわたしたちが英語の映画を見るときも、こうした問題が多々あるということです。
お礼
貴重なご意見ありがとうございました。そうですね。映画だと、最初のほうはストーリーが分からないから、なおさら聞き取りとか難しいですけど、後になってくるとだんだん分かってきますよね。それに地域差の問題は、すごく納得しました。日本だと地域が狭いから、それなりに共通性があるのですけど、英語だと、本当に広い範囲だから、もうぜんぜん分からないということがあってもおかしくないですよね。