高校生に分かるようにと言うことなので、この関数がどういうものであるかと言うことよりも、この関数がどういう時に現れて来るかを説明するべきでしょう。どこでどう使われいるかが分かれば、それが動機付けとなってその定義や関数の性質を自ら体得して行くと思います。
一番見易い所では、cos(z sin x)や、cos(z cos x)や、sin(z sin x)等のように、三角関数の中に三角関数が現れたとき、それを三角関数だけで表した時に出てくる関数です。例えば、n位のベッセル関数をJ_n(z)で表すと、
cos(z・sin x) = J_0(z) + 2J_2(z)cos 2x + 2J_4(z)・cos 4x + 2 J_6(z) cos 6x + ...
なんて言う奇麗な和で表されます。例えば、この両辺をxに関して一周期、すなわち0から2πまで積分すると、右辺の第一項以外は全てゼロになりますから、J_0(z) が三角関数の三角関数の積分で表されます。このように、三角関数の中に三角関数が現れてきたら、ベッセル関数ありきとなります。
また、音や光や量子力学の波動方程式を、極座標を使って解く時の、動径方向rの微分方程式の解を書き下す時に、多くの問題ではベッセル関数が解になって居ります。ですから、波動方程式を理解するためには無くてはならない関数です。
もう一つは、太陽の周りを回る惑星や彗星や、地球の周りを回る人工衛星の軌道を2体問題として解いた時、太陽から惑星までの距離や角度を時間tの関数として表す時に、必ずケプラー方程式と呼ばれる、
u-e・sin(u)=n・t
という方程式を解いて、u を時間tの関数で表さなくてはなりません。ここで、uは離心近点角とよばれる角度、eは楕円運動の離心率、nは平均運動と呼ばれる角速度と同じ次元を持った量のことです。このケプラー方程式の解は、ベッセル関数を使って、
u(t) = n・t + (2/1) J_1(e) sin(n・t) + (2/2) J_2(2e) sin(2n・t) + (2/3) J_3(3e) sin(3n・t) + ...
と表されます。実際、人工衛星の時々刻々の軌道を計算する時には、この解を使って計算するのです。ですから、宇宙工学ではベッセル関数は大変重要な関数なのです。実は、歴史的には、ベッセル関数はこのケプラー方程式を解くために、ベッセルは初めて導入した関数なのです。ところが、後にこの関数が先程述べた波動方程式と呼ばれる2階の線形微分方程式の解として中心的な役割を演じていることが判るようになり、今では微分方程式論と結びつける立場から、ベッセル関数を論じることが主流になってしまいました。もちろん、この方が物理系の特殊性によらず、一般化好みの数学者の性にピッタリしているからです。
蛇足ですが、物理学の学生は大学一年の時に、ニュートン方程式の2体問題の解として惑星の運動を習い、惑星と太陽の距離を、惑星の角度で表す公式を導かされます。その公式は簡単な三角関数で表されます。学生も先生もこの簡単な公式を導いて、2体問題が解けた気になっております。ところが、よく考えてみると、その距離や角度を時間の関数として表さないと、ニュートンの方程式は解けたことにはなっていませんね。しかし、これを物理学の授業で教わることは滅多にありません。その理由は、ほとんどの場合、大学の物理の先生はその解き方を知らないか、また、知っていても、大学一年生にベッセル関数をまだ教えていないので、教えようが無いのです。実際、大学の先生がこの問題を解こうとした時に、必ずケプラー方程式を解かなくてはならないのですが、もし、その先生がケプラー方程式を参考書無しに自力で解けたとすれば、その先生はベッセルと同じ程度の能力の在る方となり、世が世なら、ベッセルの代わりに、その先生の名前のついた関数になっていたかも知れないからです。私の経験でも、物理学科の先生で、ニュートン方程式の天体の2体問題にベッセル関数が出てくることを知らない方が、殆どでした。
ベッセル万歳!
補足
回答ありがとうございます。三角関数のなかに三角関数というのはどういった意味になるんでしょうか? ケプラー方程式を勉強すると理解しやすいですか?