• ベストアンサー

GaNの電気伝導率の温度依存性について

GaNの導電率を室温~10Kまで下げて測定したところ、導電率は徐々に大きくなっていき、220Kでピークをむかえた後、また小さくなっていきました。 温度を下げていくと導電率が小さくなることはわかるのですが220Kで一番大きくなっているのは何故でしょうか?

質問者が選んだベストアンサー

  • ベストアンサー
  • inara
  • ベストアンサー率72% (293/404)
回答No.1

このような導電率の温度依存性は、バンドギャップエネルギーが比較的大きな不純物半導体の一般的な特徴です。 金属や半導体の導電率 σ を決めているのは、キャリア濃度とキャリア移動度です。キャリア濃度が大きければ、電流を運ぶ担い手が多いので導電率が大きくなります。移動度が大きければ、時間当たりに移動できるキャリアの数が多くなるので導電率が大きくなります。式で書くと導電率 σ [ 1/Ω/m = C/V/s/m ] は    σ = q*( n*μe + p*μh ) で表わされます。q は電子の電荷 ( = 1.602e-19 [C] )、n は電子濃度 [1/m^3]、p は正孔濃度[1/m^3]、μe は電子移動度 [m^2/V/s]、μh は正孔移動度 [m^2/V/s] です。したがって導電率 σ の温度依存は、 n*μe + p*μh の温度依存になります。不純物半導体の場合、n 型ならば、n >> p で、p 型ならば n << p なので、導電率は多数キャリアの濃度と移動度だけで決まります。つまり    σ = q*n*μe  ( n 型半導体 )    σ = q*p*μh  ( p 型半導体 ) となります。 不純物半導体のキャリア濃度( n または p )は、資料 [1] の 図2-17 にあるように、極低温では 温度上昇と共に増加し、低温では一定値となり、さらに高温になると温度上昇と共に増加するような温度依存性を持っています。それぞれの温度領域での温度依存性は    キャリア濃度 ∝ T^(3/2)*exp{ -Ei/( 2*k*T ) } ( 極低温 )    キャリア濃度 ∝ Ni                (低温)    キャリア濃度 ∝ T^(3/2)* exp{ -Eg/( k*T ) }  (高温) です。Ei は不純物準位のエネルギー深さ [ eV ]、k はボルツマン定数 ( = 1.38e-23 [J/K] )、T は温度 [K]、Eg はバンドギャップエネルギー [ eV ] です。極低温では、不純物準位から伝導帯(n型の場合)や価電子帯(p型の場合)に励起されるキャリアが温度上昇と共に増え、その温度依存性は不純物準位のエネルギー深さ Ei にに関係しています。それより高温の領域では、不純物準位からキャリアが全て励起され尽くしてしまうので、温度を変えてもキャリア濃度は変わらず、キャリア濃度は不純物濃度 Ni に等しくなります。さらに温度を上げると、今度は、価電子帯から伝導帯に励起されるキャリアが増えてくるので、再び温度依存性が現れてきて、その依存性はバンドギャップエネルギー Eg に関係するようになります。普通 Ei << Eg なので、高温領域でのキャリア濃度の温度依存は、極低温でのキャリア濃度の温度依存よりも急峻(温度変化に対してより大きく変化する)になります。 一方、導電率に関係しているもう1つのキャリア移動度ですが、その温度依存は、キャリアの散乱が格子振動によるものであれば    μ ∝ 1/ T^(3/2) で表わされます。つまり温度が低いほど移動度が大きくなります。したがって導電率 σ は    σ ∝ exp{ -Ei/( 2*k*T ) }  ( 極低温 )    σ ∝ Ni/ T^(3/2)       ( 低温 )    σ ∝ exp{ -Eg/( k*T ) }   ( 高温 ) という温度依存を持ちます。 GaN はバンドギャップエネルギー Eg が大きいので、室温付近では、バンドギャップを超えて励起されるようなキャリアはほとんどなく、不純物準位からキャリアが全て励起され尽くしてしまっている領域(低温)になります。したがって室温~10Kという温度範囲は、上の(低温)~(極低温)の温度領域に該当します。この温度領域では、室温付近では、導電率の温度依存が σ ∝ Ni/ T^(3/2) ですから、導電率は温度が低くなるほど大きくなるという傾向になります(これは分かるわけですね)。しかしそれより低温になると、(極低温)の領域に入ってきて、 σ ∝ exp{ -Ei/( 2*k*T ) } という温度依存に変わっていきます。これは温度が低くなるほど導電率 σ が小さくなるという温度依存です。つまり、移動度が大きくなる度合い以上にキャリア濃度が低下してしまうので、温度が下がるとともに導電率が下がっていきます。したがって、途中のある温度で導電率 σ が最大となるようなころが起こります。GaNの場合、その温度が 220K あたりになっているのだと思います。 [1] 不純物半導体のキャリア濃度の温度依存(pptファイル 28ページ) www.tc.knct.ac.jp/~hayama/denshi/chapter2.ppt