またもや、回答ではありません。
また長時間視聴者は短時間視聴者よりもテレビを楽しんでいない傾向があった。非生産的な活動に対して、病ましく思う気持ちが楽しみを失わせている部分がある。日本、英国、米国の研究では、こうした罪悪感が低収入者達より中産階級で広く見られることが確認されている。
画面が引き起こす生理的反応
テレビの誘引力の一部は、人間が生まれもっている「定位反応」と関係しているようだ。定位反応とは、突然な、新奇な視聴覚刺激に対する本能的な反応で、1927年にパブロフによって提唱された。これは一種の進化の産物で、動くものや肉食動物に襲われる脅威に対する本能的な感受性だ。
古典的な定位反応としては脳への血流の増大、心拍数の低下、筋に繋がる血管の収縮があげられる。α波は抑制され、元に戻るまで数秒かかる。脳が多くの情報を集めることに集中し、脳以外の身体の活動は沈静化する。
1986年、スタンフォード大学のリーブズとミズーリ大学のトーソン等が研究を始めた。カット、編集、ズーム、パン(視点移動)などの制作技法が定位反応を活性化するかを調べた。
脳波を調べた結果、こうしたテレビ制作技法が定位反応を誘発することが確認された。彼等は「進化過程では、動くものに注意するという反応は重要だ。テレビ制作技法は、この反応を引き起こして視聴者の注意を引く。テレビの特徴は内容ではなく、制作技法にある」と結論付けている。
テレビ依存者の不幸
このようにテレビの問題点が明らかになりつつあるが、だからといって過剰に反応する必要はない。大人でも子供でも、テレビ視聴を止めるべきだという根拠は殆どない。問題は見すぎてしまう点にあるのだ。
生活サンプリング研究では、仕事、食事、読書、会話、運動など、日常生活の殆ど全ての活動を詳しく調査できる。私達は、長時間視聴者と短時間視聴とで生活習慣が異なっているのではないかと考え、調査した。
驚くべきことに、長時間視聴者は暇な時間(何もしない、空想にふける、列に並んでいるなど)に、短時間視聴者よりも強い不安を感じており、幸福感は低かった。一人で見る人ではこの傾向が更に強かった。
マニトバ大学のマキルレイスは、事前調査でテレビ中毒だとした回答者を対象に調査を行った。その結果、自称中毒者はそうでない人よりも飽きっぽく、気が散りやすく、注意のコントロールが弱い傾向にあった。長時間視聴者はそうでない人に比べて地域の活動やスポーツに参加しない傾向があり、肥満傾向が高いことが確認された。
ここで疑問が生じる。一体どちらが原因なのだろうか。人は退屈で孤独だからテレビをつけるのか、それともテレビ視聴のせいで退屈や孤独を感じやすくなるのか。多くの研究者達は前者の考えを支持している。
エール大学のジェローム?シンガーとドロシー?シンガーは、テレビを見すぎると注意持続時間が短くなる、自制心が低下する、日常生活の様々な遅れに寛容でなくなる、といった影響が生じる可能性があると述べている。
4半世紀以上前のことだが、ブリティシュコロンビア大学のウィリアムズは、ある村に初めてテレビが入ってきたときの変化について研究した。その結果、大人も子供も問題解決における創造力や課題をやり抜く力が低下し、することがないと戸惑いやイライラ感じるようになった。
禁断症状の苦悩
テレビと麻薬の類似点として、使用量を減らすと禁断症状が生じることをあげる研究者もいる。約40年前、シカゴ大学のスタイナーは、テレビが壊れてしまった家庭の体験談を集めた。一家にテレビが一台しかなかった時代のことだ。
「家族が落ち着かず、歩き回ってしまいました」「最悪でした。何もすることがなく、夫と話すしかありませんでした」「子供達のすることにイライラしてしまい、怒鳴るばかりでした」
幾つかの研究では、参加家族を募り、1週間あるいは1ヶ月間テレビ視聴を止めるという実験を行っている。参加家族の多くは、禁止期間を全うできなかった。喧嘩が起きたという報告もあった。テレビ視聴が余暇の中心になっている家庭で、習慣を変えるのは難しい。勿論、不可能ではないし、家庭が崩壊するわけでもない。この「禁断症状」のエピソードについて調べたニューヨーク市立大学のウィニックは、次のようにまとめている。「最悪なのは最初の数日間だ。半数以上の家庭では、テレビがなくなってから数日間は生活が混乱した。時間を持て余し、不安や攻撃性が表面化した。一人暮らしの人は退屈したりイライラいたりした。しかし2週間目になると、多くの家庭で順応するようになってきた」。
残念ながら、これらのエピソードは実証されていない。テレビの禁断症状について統計的なデータを集めている研究者は皆無なのだ。
テレビ視聴は「物質依存」の基準を満たしているように思えるが、全ての研究者が依存性があるとは認めているわけではない。
1998年の論文でマキルレイスは「テレビが他の余暇活動に取って代わったことは、社会的には重要な問題だ。しかし、まだ臨床的な対応が必要なほど深刻な障害は生じていない」と述べている。とはいえ、多くの人がテレビを見る量を自分でコントロールできないと感じているのは事実だ。
お礼
ご回答ありがとうございました。