現代語の「ない」という語には、形容詞と助動詞があります。
この両者は、意味が似ており活用形もほぼ同じなのですが、もともとは別の言葉であったと考えられています。形容詞「ない」は文語の「なし」が語源ですが、助動詞「ない」の語源の方は幾つかの説があって、まだ定説を見ていません。ただ、文語には「ない」と「ず」という二つの助動詞があり(「ない」は東日本方言という説が有力です。)、そのうち伝統的な「ず」が使われなくなり、今では専ら「ない」が使われるようになったわけです。
ということで、形容詞「ない」と助動詞「ない」とでは使用法に違いがあるのです。
一般に、「~なく、……」のように、活用語の連用形でいったん止め、あとにつなげる用法を「(連用)中止法」と言います。
例「酒を【飲み】、女を抱く。」(動詞の場合)、「亭主【元気で】留守がいい。」(形容動詞の場合)、「頭が【悪く】性格もよくない。」(形容詞の場合)
本題です。形容詞「ない」は、他の形容詞の場合同様、中止法として用いられます。
例「私には名も【なく】、金もない。」
それに対し、御質問の「ない」(遅くなりましたが、これは助動詞です。動詞や一部の助動詞(せる・させる/れる・られる)の未然形につくのが助動詞、それ以外の語に付いているのが形容詞です。)の場合、連用形は専ら「なく-て/なく-なる」という形で用いられ、中止法としては用いられません(いくつか例外的な使用例はあるので、全くの誤用とは言えませんが。)。その変わり、昔のライバルである「ず」が生き延びて、御指摘のように「~笑わず、……」と用いられます(「ず」は中止法にのみ生きる道が残った、というわけです。)。
長々書きましたが、結局、答えは#1の方とほぼ同じで、「助動詞『ない』の連用形『なく』は、習慣として中止法には用いられないが、用いても全くの誤用とは言えない。」ということです。
お礼
ご回答ありがとうございました。 噛んで含めるようなご解説で痛みいります。 >助動詞『ない』の連用形『なく』は、習慣として中止法には用いられない :そのために不自然に感じたのですね。 形容詞の場合の比較も含め大変参考になりました。