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銅イオンとニッケルイオンが共存する水溶液からの銅の抽出について
先日実験を行いましたが、どうしても分からない事があるので質問をさせていただきたいと思います。 実験の概要は 「銅イオンとニッケルイオンが共存する水溶液から、銅イオンをまずチオシアン酸銅(I)として有機層に抽出して、水溶液にとどまるニッケルイオンから分離する。次に無色のチオシアン酸錯体をジエチルジチオカルバミン酸錯体に変換して、その吸光度から銅を定量する」 というものです。具体的には、 「 (1)7本の分液ロート全てに (1)1%チオシアン酸ナトリウム水溶液2cm^3 (2)10%硝酸カリウム水溶液5cm^3 (3)1%アスコルビン酸水溶液3cm^3 (4)0.01M硝酸1cm^3 を加える。次に分液ロート全てに 4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)を正確に10cm^3加える。 (2)2~6番目の分液ロートには1.5*10^-4Mに調整した銅(II)イオン標準溶液をそれぞれ1.00,2.00,3.00,4.00,5.00cm^3加え、7番目には銅とニッケルが共存する試料溶液を3cm^3加える (3)それぞれの分液ロートから水層をとりのぞき、0.1%ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを約10cm^3加えて有機層のみを取り出す 」 というものです。この後検量線を作って濃度を求めるところは問題ないのですが、上述の操作で疑問点がいくつかあります。 それは(1)の作業でくわえる(2)と(4)の試薬がどういう働きをするかというものです。 (1)は銅(II)イオンを銅(I)イオンに還元するため、(3)はチオシアン酸銅(I)として銅を有機層に抽出するためと考えられますが…
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推測で申し訳ありませんが・・・ チオシアン酸ナトリウム水溶液の液性は弱アルカリだと思いますので、 銅イオンを含む水溶液に添加した場合、一部が水酸化物となり、水相に 留まる可能性が生じます。 それでは「定量」には支障がありますので、「(4)0.01M硝酸」はそれを防ぐ 為のpH調整として加えているのではないでしょうか。 残るのは「(2)10%硝酸カリウム」ですが・・・もしかしたら、チオシアン酸 イオンへの配位子交換を速やかに行わせるため、かもしれません。 どういうことかというと・・・ 例えば検体がキレート剤を含んでいた場合、キレート剤は複数の原子で 銅イオンに配位しているため、なかなかチオシアン酸イオンへの配位子が 交換しない可能性が考えられます。 このとき、配位力が弱い配位子が多量にあれば、競争によって一時的に キレートが外れる可能性は高くなります。 一方、一旦銅(I)イオンにチオシアン酸イオンが配位すると、生じた錯体は 有機相への溶解度が高いためにそちらに移動し、水相に留まる硝酸イオン やキレート剤との再結合を免れることができます。 このため、キレート剤とチオシアン酸イオンだけで競争するのに比べ、 別の弱い配位子が存在した方が、銅(I)イオンが有機相に取り込まれる のが早くなる可能性がある、という推測です。 *今回の実験の検体にキレート剤が含まれているとは思いませんが、 例えば実際の工場排水の水質検査などになれば、そういったものが 共存する場合もあり得るので、「定量方法」としてはそれらの存在を 前提とした手順になっている必要があるわけです。
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- anthracene
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付け加えますが、アドバンスな話なので参考程度に聞いてください。 銅、銀、金といった11族金属は、1価の状態を取りやすいです。 銅の場合は+1、+2がありふれておりますが、銀では+1が普通で、+2はやや不安定です。また、金では+1、+3はよくありますが、+2というのはわたしは見たことありません。 一方、ニッケル、パラジウム、白金といった10族金属では1価の状態はレアで、普通は+2(2価)をとります。 経験的ではありますが、銅が+2から+1に還元されるのはおかしくないのですが、ニッケルが+2から+1にそうやすやすと還元されるのは、経験者からするとなんだそりゃ、という感じです。 ちなみに、Cu(+2)にアスコルビン酸ナトリウムを混ぜますと、容易にCu(I)への還元が起きることは、私の実際の経験から分かっておりますし、この反応は有機合成化学でも頻用されています。 No.1に書いた酸化還元傾向の考え方でも良いとは思いますが、ニッケルの酸化還元は0価から+2への酸化を対象にしてますから、+2から+1への還元のいきやすさについては、正しい答えにはならないのではないかな、というのがわたしの考えです。
お礼
詳しい説明ありがとうございます。 では操作1で加える硝酸カリウムと硝酸の果たす役割は何なのでしょうか?
- anthracene
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アスコルビン酸は還元剤なので、操作(I)で用意した溶液に、操作(II)で銅(II)イオン標準溶液を加えますと、銅(II)イオンが銅(I)イオンに還元され、溶液中のチオシアナートイオンと錯形成します(CuSCN)。 なんでニッケルは還元されへんの?といわれても、わたしはアスコルビン酸イオンの酸化電位を良く知りませんので、はっきりしたことは分かりません。しかし、一般にニッケルの方が酸化されやすいので(酸化還元傾向からもそうですよね?)、銅の方が優先的に還元されることは妥当でしょう。 この錯体が、水より有機溶媒(ここではMIBK)に分配されやすいため、水相にはニッケル(II)イオン、有機層にはCuSCNが分配されます(ここまで操作II)。 さて、操作IIIでは、分液を行って有機層を取り出しました。 すなわち、我々の手にあるのは、CuSCNのMIBIK溶液です。 ここに、ジエチルジチオカーバメートを添加しますと、SCNよりもEt2N-CS2-の方が銅(I)イオンとの親和性が高いため、 CuSCN -> Cu(S2C-NEt2) という配位子交換反応が起こり、ジチオカルバミン酸銅錯体が生成するのでしょう。 わたしも詳細は知りませんが、一般にジチオカルボン酸イオンは赤色~褐色に着色しますので、おそらくこれのUV-visスペクトルから定量するのでしょう。
補足
なるほど。 こんな重要な事を書き忘れていましたが、この銅-ニッケル試料は銅とニッケルの合金を濃硝酸と濃塩酸を用いて溶かしたものです。このときの硝酸イオンと塩化物イオンが関係しているかもしれませんね。