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BCS理論の限界
「BCS理論で予想される超伝導転移温度は精々40K程度であり、転移温度が150K程度まで観測されている酸化物高温超伝導体を到底説明できない。」という説明を聞いたことがありますが、この状態は今も変わっていないのでしょうか?
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高温超伝導フィーバーの頃には、少し超伝導分野の端っこにぶら下がっていたのですが、もう15年以上も遠ざかっているので最近の研究展開は良く知らないのですが。 まず、BCSによる限界の話しですが。その数値自体はそれほど信頼出来る数字ではありません。高温超伝導発見以前は、様々な物質が調べられたにもかかわらず長い間23Kの記録が更新されず、そのために超伝導転移温度には上限が有るのではないだろうか?ってことで、かなり漠然とした見積もりをした程度のものです。そもそも、BCS理論というのは超伝導がどのような仕組みで起こるかを定性的に説明する理論で、超伝導の転移温度を定量的に予測する理論ではありません。おそらく、現在超伝導転移温度を定量的に計算出来る理論は無いのではないでしょうか? 実際に、比較的最近秋光先生によって発見されたMgB2は、確かほぼBCS理論で説明できる超伝導体だったと思いますが、Tc=39Kで予測限界になっちゃってますし。 酸化物系も、発見当初は従来の超伝導体とあまりにもいろんな物性が異なっているという報告が相次ぎ、BCS理論では全く説明できない新超伝導物質だと思われていたのですが。フィーバーも落ち着いて冷静な研究が進むと、初期の測定にはミスも多く、実は大半の測定結果は従来の超伝導物質と本質的に大差は無いということになり、大きな違いは転移温度だけという半ばジョークのような話しも出てきました。 ただ今でも、何故この層状酸化物系だけこんなに突出した高転移温度を示すのか、という説明は出来ていないと聞いています。 次に、良く誤解されるのですが、「強電子相関」の言葉です。有名な物理原則に「3体問題には厳密解は出せない」というのが有りますが、固体物理の世界では、3体どころかもっと多くの電子間の相互作用が影響してきます。ところが、これは物理原則に従って厳密には解けませんから、なんとか工夫を凝らして2体問題や1体問題に近似するわけです。その時に、1つの電子の振る舞いを考える上で、他の電子とのクーロン反発は具体的に使わずに、電子が感じるポテンシャルの中に平均的に取り込んでしまおうというのが、通常の固体物理のやり方です。こんな大雑把なやり方でも、多くの固体物理現象は十分に定性的に説明出来るのです。BCS理論もその一つです。つまり、高温超伝導体に限らず、どの物質にも厳密には電子相関は存在しています。そのような単純な近似でも説明の付く物理現象はもうかなり調べられてきたので、最近では高温超伝導に限らず、電子相関の影響が大きくこれを単純化した扱いは出来ないような物質=強電子相関系=伝導電子が少なくバンドが狭い系、が注目を集めてきているのです。つまり、強電子相関物質とは、そんなに特別な物質では無く、逆に世の中で見かける大半の物質は強電子相関物質でしょう。 最近の超伝導の話題には疎いので、#1のお礼に書かれていたJSTの発表も初めて見たのですが、おそらくこの発見自体は直接高温超伝導機構解明に関係するものではないと思いますよ。高温超伝導機構解明の中で重要な要素となっているモット転移と呼ばれる現象(これ自体は、高温超伝導発見よりずっと以前から知られていた固体物理の教科書にも載っている有名な物理現象)に関して、層状物質で特異な振る舞いを示すことを発見したというだけのことです。 この研究自体は十分に立派な成果だろうと思いますが、「高温超伝導の機構解明にもつながると期待されている」という言葉は、一般の人への分かりやすいアピール用の修飾語として多用される言葉です(笑)
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- apple-man
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>お薦めの本があればご紹介いただけませんでしょうか。 比較的新しい入門書としてはこれ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4526051039/qid=1139750345/sr=1-13/ref=sr_1_2_13/249-2589442-5134744 トコトンやさしい超伝導の本 内容的にお奨めなのはこれ↓ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062572656/qid=1139750634/sr=1-28/ref=sr_1_2_28/249-2589442-5134744 はじめてナットク!超伝導―原理からピン止め効果の応用まで この著者の村上雅人という人が、日本の 超伝導士!(笑)で、 超伝導はすばらしい!と いつも宣伝されている方で、今月号(2月号)の パリティの「超伝導体の応用が始まった」という 外国の記事の翻訳をされています。 それから、これは、15年以上この分野を遠ざかっている方のほうへ(笑)お奨めかもしれない専門書の部類ですが、 酸化物超電導体のことが詳しくまとまった 最新本として http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/490238521X/qid=1139750317/sr=1-1/ref=sr_1_8_1/249-2589442-5134744 マテリアルサイエンスにおける超高圧技術と高温超伝導研究 があります。 超高圧にすると水でも金属的電気伝導を示す ようになるんですよ。1986年にIBM チューリッヒ研究所のベドノルツと ミュラーが酸化物超伝導の研究をして いたときも、超高圧を加えると電気的性質が 顕著に出るだろうと予想して、実際やってみたら BCSぎりぎりの30K付近に抵抗率の変化があった んで、これはもしかして!?ということになったの ですが、今でも電気特性と圧力の関係は重要な 研究対象なため、超伝導の本に超高圧技術なんて いうタイトルがつくわけです。 >単なる科学ファンの非物理系人間には、 興味は重要な人間の感情です。大事に育てて下さい。 今からでも理系の勉強をはじめられては如何でしょうか? 私の知り合いにも文系理転された方がいますよ。
お礼
ご紹介ありがとうございます。村上さんの本は分かりやすいですね。 <興味は重要な人間の感情です。大事に育てて下さい。 <今からでも理系の勉強をはじめられては如何でしょうか? <私の知り合いにも文系理転された方がいますよ。 齢60中半の人間にはキツイお言葉ですが、若いときに買った「ファインマンの物理学」をひもときはじめました。
- kenojisan
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#2の回答者です。ご丁寧なお礼いたみいります。 参考書なのですが、私ももう15年以上もこの分野を遠ざかっているので、申し訳ないですが推薦出来る参考書を知りません。 ただ、科学雑誌の「パリティ」が、フィーバー以降も丁寧にこの分野を追いかけているように思いますので、図書館などでバックナンバーの関連記事を読まれてはいかがでしょうか?この雑誌は、完全な一般人には少々レベルが高すぎる気がしますが、解説内容はかなり正確ですし、あなたレベルなら楽しめると思いますよ。
お礼
「パリティ」はレベルが高すぎるので読んでいませんが、早速バックナンバーを当たってみます。有難うございました。
- パんだ パンだ(@Josquin)
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変わっていません。 高温超伝導でもクーパーペアが出来ているという点はBCSと同じです。しかし、BCSと異なり、電子相関(電子と電子の反発)が重要な役割を果たしていることがわかっていますが、統一的に説明できるような理論はまだありません。
お礼
ご回答有難うございます。電子間の「吸引」ではなく「反発」が重要な役割を担うのですか、興味深い考えですね。高温超電導におけるBCS理論の破綻は、高臨界温度では格子運動と電子の相互作用が弱まるので、クーパーペアを構成できなくなってしまうからだということのようですが、平成16年7月に科学技術振興機構が、<「高温超伝導体中で格子振動と強く相互作用して運動する電子の直接観測」に世界で初めて成功した。格子振動の影響を強く受ける電子は、その運動方向とエネルギーに特徴があり、高温超伝導になる電子対のもつ運動状態と深く関連していることを発見した。この測定結果は、高温超伝導の仕組みを理解する上で重要な手がかりになるものと期待している。>という発表をしています。この発見はその後どのようにフォローされているのでしょうか。
お礼
懇切丁寧な回答をいただきありがとうございます。 単なる科学ファンの非物理系人間には、メディアで目にする情報の裏に隠された本質を見抜く力がありません。これからも的外れな質問をさせていただくこともあろうかと思いますが、宜しくご教示ください。「モット転移」ということばをはじめて目にしました。もっと勉強しなければいけませんね(^^!)。超伝導に関する本は、図書館で調べても殆どが10年以上前のもので最近のものが見当たりません。お薦めの本があればご紹介いただけませんでしょうか。因みに印象に残っている本は恒藤敏彦著の「超伝導の探求」(岩波書店)です。