社会心理学の分野では、このような行動パタンを
「獲得的セルフハンディキャッピング」と呼んでいます。
目前に控えた課題に対して自信を持てないときに起こりやすいのですが、
言うならば、あらかじめ「言い訳の種」を蒔いておく行動です。
たとえばテストの前日に限って一生懸命掃除をしてしまう。
そして翌日受けたテストは点数が悪かった。
この状況を、われわれ人間は非常に都合よく解釈しがちです。
「前日に掃除なんかしなければ、もっと点を取れたはずだ」と。
そして、他人にはこのように言うのです。
「前の日にふと気づいて掃除を始めちゃったら終わらなくてさ。
あまり勉強できなかったんだよね」と。
これが何を意味しているのかというと、
「成績が悪いのは自分の能力のせいだ」と思いたくないがために、
あらかじめ自分に足かせ(つまりハンディキャップ)を付与し、
「成績が悪いのはハンディのせいだ」と言おうとしているのです。
つまり、
「テストで点数が悪かった。
でもそれは自分に能力がないからではない。
前日に掃除したせいだ。
掃除さえしていなければ、
自分はもっとよい点が取れる人間だ」
という論理のすり替えを行っているのです。
何のためにそんなことをするのかといえば、
人には「自尊心を守りたい」という欲求があるからです。
「自分で100%の努力をしたのに点数が低い」ということになると、
自分は根本的に能力が低いことになってしまうので、
自尊心はガタガタになりますが、
「前日に掃除をしたから自分の能力を100%発揮したわけではない」
と自分に言い訳ができれば、
自分は根本的に能力が低いわけではなく、
今回はたまたま努力不足だっただけで、
本気でやればもっとできるんだ、
と考えることができ、
自尊心を守ることができるのです。
このような行動はほかにもいくらでもあります。
テストに限らず、スポーツの試合や大事な仕事の前日に限って、
なぜかテレビを見すぎてしまったり、
夜更かししてしまったり、
深酒してしまったり・・・
場合によっては、
実際に体調が悪くなってしまう場合すらありますね。
このようなことをすると、
現実のハンディキャップを自らに課すことになりますので、
もともと自信を持てないテストや試合が、
更にできなくなってしまう可能性があります。
それにもかかわらず、
人間は獲得的セルフハンディキャッピングをする。
つまり、
「テストや試合で自信が無いなりに少しでも点を取る」
ということよりも、
「自尊心を守る」
ということのほうが、
人間にとっては欲求が強いのです。
ちなみに、セルフハンディキャッピングにはもう一種類あり、
もう一方は
「主張的セルフハンディキャッピング」と呼ばれています。
これは自分に対する言い訳を意図した行動ではなく、
他者に対する言い訳として機能するものです。
たとえば、テスト当日の朝などに、
友人にこんなことを言ったことは無いでしょうか?
「今日は体調が悪くてさ…」とか、
「昨日は家の事情であまり勉強できなかったんだ」とか、
「部活で疲れててテストどころじゃなくて…」とか。
こういうことを言うからといって、
本当に体調が悪いわけではなかったり、
本当に勉強ができなかったとは限りません。
テストで出来ないと格好悪いので、
前もって言い訳をしておく行動なのです。
このような言い訳をしておけば、
実際の点数が低かったとしても、
友人はあなたに対し、
「体調悪いって言ってたし、今回は点が悪くても仕方無い」
と思ってくれる可能性がありますし、
逆に、実際にはよい点を取れた場合には、
「体調が悪いのにいい点を取るなんてすごい」
と思ってくれるかもしれません。
言うだけ言っておけば、いろいろと都合がよいのです。
この場合は先ほどの「獲得的」とは違い、
「他者から高く評価されたい」という、
「自己評価の維持・高揚」という欲求が
主に働いていると思われます。
もちろんこれらの行動には個人差がありますので、
獲得的にせよ主張的にせよ、
セルフハンディキャッピングを多くする人もいれば、
ほとんどしない人もいます。
ですが、一流と呼ばれる人においてもこのような行動は見られ、
オリンピックやプロスポーツで、
本番直前期になると、体調管理の意味は無いのに、
練習量を減らしてしまう人がいます。
逆に、オーバーワークで怪我をする人もいます。
これらは全てではないにせよ、
セルフハンディキャッピングの側面があると考えられています。
お礼
お礼が遅くなってすみません。 現実逃避やストレス緩和、言い訳、とにかくテストから 逃れたいという無意識の何かがそうさせるんですね。「獲得的セルフハンディキャッピング」と呼ばれているのですか。詳しく説明していただき参考になります。 言い訳が何もなくて悪い点数を取るのは厳しいですもんね。都合がいいようにそうしてしまうのですね。 皆さん回答ありがとうございました。 自分だけではなかったんだと思って少しうれしいです。