i-mutationというのは、日本語で記せば「母音変異」、言語学で一般に通用するのはi-Umlautですね。Umlautは見慣れない語だと思いますが、これはドイツ語でum(around)+laut(sound)のように成っており、「(母音の)音の変異、変母音」を表します。
具体的な例を挙げましょう。
一般には「不規則な変化」とされるものを考えます。
・foot - feet (不規則複数変化)
この変化は、「-(e)sを付して複数形とせよ」という規則に反しますので、不規則変化です。しかし、その歴史を見ますと、全く不規則ともいえないことが分かってきます。以下に語源(一部推定形)を挙げます。
foot < OE fot < PGmc *fot < ...
feet < OE fet < ... < PGmc *fotiz < ...
OEは古英語、PGmcはゲルマン祖語を指しますが、この祖語にまで遡ると、語基は同一であることが分かります。すなわち、*fot-に複数語尾-izがついているわけですね。ここで、語尾に含まれる"i"が曲者なのです。この母音は、前の母音に変化をもたらすもので、"o"は概略"oi(又はoe)"のような音に変化し、時間を経た後"e"となってしまいます。故に、OEでの複数形fetが得られるわけで、元は一定の規則に従っていたことが明らかですね。
ちなみにこのUmlaut(ウムラウト、ウムラオト)は、ドイツ語等には現在も幅を利かせていて、a, o, uの母音の頭に:を水平にしたものを乗せて「変母音」であることを伝えます。当サイトではこの記号が出ませんので、くどい説明となりましたが、「実物」は参考URLに乗せてありますYahoo! Deutschlendでも体験できますので、よろしければどうぞ。(※a, o, uのUmlautはそれぞれ、記号を用いなければae, oe, ueと書きます。)
この現象を知っていると、man-menやtooth-teethの複数変化はもちろんのこと、long-lengthやsat-set、old-elder-eldest等の交替現象も統一的に説明可能です。
関係あるのか分かりませんが、日本語の他動詞・自動詞交替でも似たような音の変化があります。
・ag-a-ru「あがる」 - ag-e-ru「あげる」
・suw-a-ru「すわる」 - suw-e-ru「すゑる」
関係あろうとなかろうと、興味深い現象ではありますよね。
お礼
ありがとうございます!!とても参考になりました。おかげさまでなんとか理解できました。本当に感謝してます。