こんばんは。今夜もお会いしました。
焼き入れ時の温度降下についふれますが、
炭素鋼をモデルにすると、
鋼には焼きが入るためには、焼き入れ温度からオーステナイト(高温の面心立法格子)が過冷却のままMs点と呼ばれる、マルテンサイト変態を起こす温度まで急激に冷却されなければなりません。この温度領域を「臨界区域」と言います。
しかし、Ms点の下に、過冷却なオーステナイトがマルテンサイト(高硬度・体心立法格子)に変態する区域があり、さらに変態終了する温度Mf点もあります。
このMs点~Mf点の温度領域を「危険領域」と言い、残留応力から応力割れが発生しやすい領域です。
このMs点~Mf点の間を、「危険区域」をゆっくり温度降下させる事・・・つまりマルテンサイト変態(内部応力開放・膨張)と温度降下をバランスよく行う事が応力破壊を防ぐことになります。
>どのような違いがあるのでしょうか?
基本的には、ご指摘のように熱安定性が合成鉱油の方が安定している、コストパフォーマンスがよい事が主だと思います。
また人工的に冷却能や冷却曲線を容易に変化することが出来る点でしょう。
植物油(菜種油など)は、製品そのままで秀でていて、「臨界区域」の冷却能が比較的高いながらも、「危険区域」の冷却能が水(水温18度)の5%程度しかなく、過冷却のオーステナイトを水よりも緩やかに変態させていきます。確かに温度変化による化学的(酸負等)に弱いと言う点があります。しかし、天然に存在しつつも、熱処理油としての基本的な性能はしっかり持っている物が多いと言えます。(引火点が高く安全・適度な粘度・冷却能が適度)
植物油の場合、現在も極少量ですが、伝統工芸や零細・小規模な(小ロット、手工具、打刃物等)事業所では根強く使用されています。単品で応用できる処理項目、応用できる鋼種が広く、小ロットで入手しやすいと言う点で評価が高いと言えます。目的により、幾つかの植物油をブレンドし自分達が使いやすいように現しているところもありますが・・・伝統へのこだわりもあるようです。
「熱処理油・焼き入れ焼きなまし油」として専用に売られている鉱油の場合、天然の鉱物質のオイル成分では性能が満足しない(揮発性、引火点が低い・粘度が不適当・冷却能が悪い、劣化しやすい等)ため、鉱油を化学合成、調合することが必要になります。そして臨界区域の冷却能、および危険区域の冷却能を調節することにより、多様な熱処理を可能にしているのです。合成鉱油の場合、マスプロ、大量生産。また、高合金鋼のように複雑な熱処理を効率よく行う場合は、やはり適切な冷却能を持つ合成鉱油を選ぶ事になります。
菜種油(≒てんぷら油)で焼入れしていると、特に1000度以上から焼き入れすると、段々醤油色になってきます。焼き入れによる劣化です。合成鉱油でも同じことが言えます。自動車のエンジンオイルの劣化と同様な劣化が起きていると考える事になります。
もう少し踏み込めば、500度付近のトールスタイト変態に触れることになりますが、鋼種により大分説明が変わることになりますね(^^;
凡その役に立てば宜しいのですが・・・。
お礼
R-TANAKA 様ありがとうございます.またまた,お世話になってしまいました. 夜も遅い時間にお疲れの中,大変詳しい内容の回答ありがとうございます.熱処理について素人な自分には,R-TANAKA 様の回答がとても勉強になって,役立たせていただいています. 本で調べるのも勉強になっていいのですが,熱処理等は,経験が一番重要だと自分は考えていますし,先生にも言われました.ですので,R-TANAKA 様のような経験者の方の回答は,とても心強いです. 質問ばかりして,厄介者ですが,これからも宜しくお願いします. ありがとうございました.