oodaikoです。私が
>なんとなく反例があるような気がするのですが…
なんて書いてしまったので皆さんをミスリードしてしまったようです。
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<rabbieさんのNo.5の回答について。
いや恐れ入りました。完璧です。
……と最初は思ったのですが、なんかすっきりしないので良く考えてみたら
やはり根本的な問題があり、このままではちょっと具合が悪いです。
しかし幸いにもrabbieさんの回答をヒントにして対偶を示せることがわかりました。
すなわちsiegmund先生の条件(a)(b)(c)を満たすならばfは収束する。
と言う結論は正しいです。
以下rabbieさんの証明の問題点を論じつつ、それを下敷にして証明をしていきます。
なお収束点は(0,0)で考えますが、収束値は一般の実数Kとしておきます。
またlim_{(x,y)→(0,0)}f(x,y)=∞となる場合はとりあえず考えないことにします。
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まず対偶を示すためには結論部の否定命題はどんなものかを考えてみる必要がありますが
これは良く考えると結構複雑です。こういうものを考える時は論理記号で書いてみた方が
誤りが少なくなります。まず証明すべき命題の結論部は
lim_{(x,y)→(0,0)}f(x,y)=K
ですが、これを論理記号で書くと
∀ε>0,∃ δ>0, ∀ x (|x| < δ),∀ y (|y| < δ),(|f(x,y)-K | <ε)…(A)
ですね。……などと言われて同意したりしてはいけません。
lim_{(x,y)→(0,0)}f(x,y)=K という記法はあくまで論理式(A)を満たすような
Kが存在することを仮定した上でのものですから、正確には収束点Kも存在すること
を言っておかなくてはいけません。
(私もつい最近 http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=92121 で同じような
勘違いによる大ポカをやったばかりです。)
従って正確には
∃K∈R,∀ε>0,∃ δ>0, ∀ x (|x| < δ),∀ y (|y| < δ),(|f(x,y)-K | <ε)
と書かなくてはいけません。
fを極座標に変換した時は
∃K∈R,∀ε>0, ∃ δ>0, ∀ r(0<r < δ),
(|f(r,θ)-K |=|f(r cosθ,r sin θ)-K | <ε)
となります。ところがこの命題の(|f(r,θ)-K |=|f(r cosθ,r sin θ)-K | <ε)
の部分はθによらないのですから、そのことも記述しておかなくてはいけません。すなわち
fの極座標表示による最初の命題の結論部を論理記号で書くと
∃K∈R,∀ε>0,∃ δ>0,
∀ r(0<r < δ),∀ θ(0≦θ<2π),(|f(r,θ)-K | <ε) …(B)
となります。
さてそうすると結論部の否定命題は
∀K∈R,∃ε>0,∀δ>0,
∃ r(0<r < δ),∃ θ(0≦θ<2π),(|f(r,θ)-K | >ε)…(P)
となります。
このスレッドを見ている方々には釈迦に説法でしょうが、念のためこの命題を
普通の言葉で書いておくと
〈命題P'〉任意の実数Kに対して 、ある正の実数εで
「任意のδ>0 に対して、ある θ(0≦θ<2π) と r <δとなるようなrで
|f(r,θ)-K|> εを満たすような θ,rが選べる。」
となるようなものを選べる。
というややこしいものになります。
すなわちrabbieさんの証明の最初の部分
>このとき、(x, y) -> (0, 0) の時、r -> 0 であり、さらに f -> 0 でない というのは、
>(σに依存しない)ε > 0 が存在して、任意のσ>0 に対して、
>r < σ かつ |f(r,θ)| > εを満たす点(r,θ) が選べる。
>となります。
は、論理的に正確ではありません。
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さてもう一度元に戻りますが、このスレッドで散々話題になっている
解決したい命題とはどんなものだったでしょう。
問題になっていたのはsiegmund先生の条件(a)(b)(c)で同じ値Kに収束するような
関数は極限を持つか?またその値はKか?ということです。
つまり
〈命題C〉"siegmundの条件(a)(b)(c)"で同じ値Kに収束するような関数は(0,0)でKに収束する。
と言う命題を証明すれば良いわけです。しかし"siegmundの条件(a)(b)(c)"はきちんと記述
しようとするとけっこうやっかいです。そこで"siegmundの条件(a)(b)(c)"から導けるもう
少し簡単な形の〈条件S〉を定め、その条件で同じ値Kに収束するような関数は極限値Kを
持つことを示しましょう。
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極座標を使って (x,y)=(r cos θ,r sin θ)とします
〈条件S〉「任意のα(0≦α< 2π)に対して
θ→α,r → 0 と言う条件を満たしつつ(x,y)→(0,0)とすると
f(r,θ)= f(r cos θ,r sin θ) → K となる」
という条件を考えます。
この〈条件S〉はもう少し簡単に
〈条件S'〉「任意のα(0≦α< 2π)に対して
lim_{r→0,θ→α} f(r,θ) = K」
と書きかえられます。
【命題】
関数fが"siegmundの条件(a)(b)(c)"を満たしていれば〈条件S〉も満している。
【証明】
αは 0,π/2,π,3π/2 以外とする。
(x,y)=(r cos θ,r sin θ) とすると
y/x = tan θ だから θ→α は y/x → tan α を意味する。
また r→0 は(x,y)→(0,0)を意味する
すなわち
「θ→α,r → 0 と言う条件を満たしつつ(x,y)→(0,0)とする」
という操作は
「y/x → tan α を を満たしつつ(x,y)→(0,0)とする」
という操作を意味する。
よってそのとき siegmundの条件(c)より f(x,y)→ K となる。
α=π/2 または α=3π/2 の時は (b)を、またα=0 または α= π の時は (a)を
使って同様に示せる。 ■
従ってsiegmund条件(a)(b)(c)の代わりに〈条件S〉を使い、
〈条件S〉が満たされていれば関数は極限を持つ
と言うことを証明することにします。
すなわちもう一度証明すべき命題を書くと
〈命題X〉2変数関数f(r,θ)=f(r cos θ,r sin θ)は
あるK∈Rが存在して
任意のα(0≦α< 2π)に対して lim_{r→0,θ→α} f(r,θ) = K
となるならば
lim_{r→0} f(r,θ) = K
である。
この命題が正しいことを証明できれば、"siegmund条件(a)(b)(c)"を満たす関数は
〈条件S〉も満たしているのでやはり極限値を持つことが言えます。すなわち〈命題C〉が証明された
ことになります。
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さて対偶を示すために、〈条件S〉もしくは〈条件S'〉の否定はどんな論理式になるかを確認して
おきましょう。〈条件S'〉は
任意のα(0≦α< 2π)
に対して
lim_{r→0,θ→α} f(r,θ) = K
でしたから、これを論理式で書くと
∃K∈R,∀ε>0,∀α(0≦α<2π),∃δ>0,
∀r (0<r < δ),∀θ(|θ-α|<δ),( |f(r,θ)-K |<ε)………(S'')
となります。これが〈条件S〉を表す論理式です。
従って、その否定命題は
∀K∈R,∃ε>0,∃α(0≦α<2π),∀δ>0,
∃ r (0<r < δ),∃θ(|θ-α|<δ),( |f(r,θ)-K |>ε)…(Q)
となります。
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やっと証明の準備が整いました。以下では論理式(P)または〈命題P'〉を仮定して、そこから
〈条件S〉の否定である論理式(Q)を導きます。
まず論理式(P)を満たすようなKとKに対応して決まるε>0を1つ固定します。
するとrabbieさんの証明の前半部分と全く同様にして
点列{A_n}={(r_n,θ_n)}で、あるα(0≦α<2π)に対して
lim_{n→∞}θ_n = α となりかつ
lim_{n→∞}r_n = 0 で、すべてのnについて|f(r_n,θ_n)-K |>ε と
なるようなものを選べます
(*)rabbieさんの回答ではこの段階で「この{A_n}はsiegmund条件(a)(b)(c)
を満たさないから証明できた」としていますが、先に書いたように siegmund条件(a)(b)(c)
の否定はそう単純なものではないので、まだこの段階では証明は終了しません。(*)
さてここまでの段階で示せたことをε-δ方式で書いてみると
〈命題T〉「任意の実数Kと、あるε>0に対し、あるα(0≦α<2π)が存在して
『任意のδ>0に対しあるm∈Nがあってn≧mならば
|θ_n - α|<δ かつ 0< r_n <δ』
となりかつすべてのn∈Nに対し|f(r_n,θ_n)-K |>ε となる。」
となります。
(『』の中はlim_{n→∞}θ_n = αと lim_{n→∞}r_n = 0 を論理式で書いたものです)
【命題】
〈命題T〉が成り立つならば次の〈命題Q'〉も成り立つ。
〈命題Q'〉任意の実数Kに対して 、あるε>0とα(0≦α<2π) であって
「任意のδ>0 に対して、|θ-α|<δ かつ0<r <δ かつ |f(r,θ)-K|> ε
を満たすようなrとθ(0≦θ<2π)が選べる。」
となるようなものを選べる。
【証明】
任意のKに対し〈命題T〉で存在が保証されているε,αを選んで固定する。
すると〈命題T〉の2重鍵括弧部より、任意のδ>0に対して
|θ_m - α|<δ かつ 0< r_m <δとなるようなθ_m , r_m が選べる
また〈命題T〉の
「すべてのn∈Nに対し|f(r_n,θ_n)-K |>ε」
と言う条件より、|f(r_m,θ_m)-K |>ε でもある。
そこで θ=θ_m , r=r_m と書き直せば
「任意のδ>0に対して|θ-α|<δ かつ0<r <δ かつ
|f(r,θ)-K |>εとなるようなθ , r が選べる。」
と言うことが言える。すなわちまとめると
任意の実数Kに対して 、あるε>0とα(0≦α<2π) であって
「任意のδ>0 に対して、|θ-α|<δ かつ0<r <δ かつ |f(r,θ)-K|> ε
を満たすようなrとθ(0≦θ<2π)が選べる。」
となるようなものを選べる。
すなわち〈命題Q'〉が導けた ■
(Q')を再び論理式として書き表すと
∀K∈R,∃ε>0,∃α(0≦α<2π),∀δ>0,
∃ r (0<r < δ),∃θ(|θ-α|<δ),( |f(r,θ)-K |>ε)
となります。
ですからこれはまさに(Q)そのものです。
よって
収束の否定から〈条件S〉の否定が導かれたので、めでたく〈命題X〉が証明されました。
すなわちsiegmund条件が一般に関数の収束性を保証するものであることがわかりました。
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私も面倒なことをせず最初からこうすれば良かったですね。
位相空間やら何やら大げさな道具を持ち出してしまって
「蝿を落すのにミサイルを持ち出す」典型的な例です。
(とはいえ螺旋軌道で逃げようとしたりするようなかなりしぶとい蝿でしたが)
おかげで皆様を混乱させてしまいましたね。お恥ずかしいかぎりです。
なお今証明したのは一番最初の
関数f(x,y)が
(a) y/x → 0 としながら,x,y → 0
(b) x/y → 0 としながら,x,y → 0
(c) y/x → a (ゼロでない定数) としながら x,y → 0
としたとき、いずれの場合にも同じ定数Kに収束するならば
(x,y)→(0,0)とした時のf(x,y)の極限値は存在しそれはKである。
という命題であって、y/x,x/yに絶対値をつけたものではありません。
絶対値を付けても付けなくても本質的には同値な条件だと思うのですが、
その辺りの吟味はまた今度。
P.S.
論理式で考えてみたら、収束の論理式(B)は私の回答No2で収束のための十分条件として
考えた『すべての方向から「一様」に収束する』の論理式表現でもあることに気がつきました。
つまり完全なトートロジーだったわけでほとんど無意味な条件でしたでした。ガックリ。
やはり複雑な条件は論理式できちんと表現してみることが大事ですね。
補足
そもそもsiegmundの条件(a)(b)(c)って > (a) y/x → 0 としながら,x,y → 0 > (b) x/y → 0 としながら,x,y → 0 > (c) y/x → a (ゼロでない定数) としながら x,y → 0 この(c)って特定の1つで良いのでしょうか、任意の数についてなのでしょうか?つまり y/x → 0 としながら,x,y → 0 でf(x,y) → 0 x/y → 0 としながら,x,y → 0 でf(x,y) → 0 y/x → 3 としながら,x,y → 0 でf(x,y) → 0 であればf(x,y)は収束するとしていいのか?良いとしないと > 関数fが"siegmundの条件(a)(b)(c)"を満たしていれば〈条件S〉も満している。 は言えないんじゃないかと思うのですが。ってことは証明全体も成り立たない事になりますが。 それより、こんな話、教えて!gooとかで初めて発見されるような話なんですかね? 多変数関数が極限値を持つかどうかの判定法なんて2~3世紀前に発見されてても良さそうな気がするのですが。