はい,スティーブン・グールドは,まだ60歳程で若かったですが,癌で10年ほど前にお亡くなりになりました。論争相手のリチャード・ドーキンスとほとんど同じ世代でしたが,ドーキンスは70代ですが健在です。現在の研究者は,ドーキンスのような強固なダーウィニストの大御所と論争することを好まないのではないかと思います。
しかし,ドーキンスのようなダーウィニストではなく,グールドの考え方は,日本的で私は好きですね。個人的で申し訳ありませんが,ダーウィンは嫌いです。それだけで進化が説明できるとも思いません。
最近は,遺伝子に変化がなくとも,生物は形態を大きく変えることができるといった理解が進みました。昔から同種多形態といいまして,全く同じ生物でも複数の形態をとるものがいます。
例えば,トノサマバッタには,孤独相と群生相と言った2つの形態をとります。孤独相は普通のトノサマバッタですが,何代か個体群密度が多い状態で育ちますと,大空を群れで飛び回り,その様子は衛星から観測されるほどになります。いわゆる「飛蝗」です。これは,エピジェネティクスと呼ばれるもので,DNAの塩基配列の変化を伴わずに次代に継承される遺伝子発現の変化が原因です。
もう一つの例で,少し前のロシアの研究ですが,キツネをペットとして飼育するとわずか数代でイヌ化するというものです。動画で見ますとまさしく,尾を除いてはイヌです。さらに日本の柴犬は,ニホンオオカミをペット化したものだとDNA解析の結果分かりました。
ですから生物は,短時間に劇的に変化できるもののようです。さらに獲得形質も遺伝することが分かってきました。断続平衡説と言わないだけで,世のダーウィニストは,これらの現象をなんと説明するのでしょうか。
お礼
期待をはるかに越える回答を寄せていただき、ありがたうございます。回答文を何度も読み返しました。 >>現在の研究者は,ドーキンスのような強固なダーウィニストの大御所と >>論争することを好まないのではないかと思います。 たしかにさういふ面があるのかもしれません。 >>グールドの考え方は,日本的で私は好きですね。 私もグールドのファンです。お亡くなりになつたのは残念です。遺伝子が判れば生物が判る、素粒子が判れば世界が判る、そんな西洋還元主義的な見方に対して、東洋的な「木を見て森を見ず」といふ批判をつづけてゐました。グールドの著作を読んで、わが意を得たり、といふ感想を何度も経験しました。 >>個人的で申し訳ありませんが,ダーウィンは嫌いです。 >>それだけで進化が説明できるとも思いません。 おつしやる意味は理解できます。私としては、嫌ひとまでは言ひません。『種の起源』を読むと、自説に不都合な証拠を数多く挙げてゐます。あの態度は立派だと思ひます。 >>これは,エピジェネティクスと呼ばれるもので, >>DNAの塩基配列の変化を伴わずに次代に継承される遺伝子発現の変化が原因です。 バッタの相変異についてはよく知られてゐますが、遺伝子との関連につきましては、初めてうかがひました。これから調べてみます。もしよろしければ、詳細をご説明くだされば助かります。 >>生物は,短時間に劇的に変化できるもののようです。 「短時間」といふ言葉にも、日常的な意味と、地質学的な意味と、ふたつがありますが、どちらでも通用しますね。 >>獲得形質も遺伝することが分かってきました。 これも不勉強で、事情がわかりません。 1981年にスチールとゴルチンスキーが「ネイチャー」誌に免疫系における獲得形質の遺伝の論文を発表したときは、バイスマンの法則がやぶられた、と話題になりましたが、ドーキンスをはじめとするダーウィニストから徹底的に非難されました。結局確固たる論拠を示せず、お流れになつてしまひました。 このあたりも、情報をお持ちでしたら、御教示くださればさいはひに存じます。 このたびは、貴重な内容の回答をいただき、ありがたうございました。