こんにちは。
結論から述べますと、まだ未解明だそうです。ですから、ご質問の内容から、質問者さんにおかれましては味覚嫌悪学習に就いて基本的なことは把握しておられるようですので、取り合えずここでは問題を整理してみたいと思います。
味覚嫌悪学習のメカニズムは従来の古典的条件付けとほぼ同じと考えられていますが、他の古典的条件付けとは少々異なった特徴があります。
まずひとつは、従来の古典的条件付けが「認知的プロセス」を辿るのに対し、味覚嫌悪学習は「情動的プロセス」であり、ここはそもそも「無意識の領域」であるということです。
知覚というものをどのように定義するかにもよりますが、無意識である以上、認知はされませんので、知覚入力があっても自覚はありません。ですが、自覚はなくとも、何らかの入力がなければ学習は行われないはずです。
では、ここで情動的プロセスとはどのようなものかを考えますと、甘味は味覚野で知覚され、大脳皮質で認知されますが、これと同時に大脳辺縁系の偏桃体にも入力され、「生物学的利益」と判定されなければなりません。
偏桃体は身体内外のあらゆる知覚に対して「快・不快」を基に利益・不利益の判定を下し、辺縁系に情動反応を発生させます。利益と判定されますと辺縁系を中心とした報酬系回路が活性化され、接近行動が選択されますが、不利益の場合には報酬系回路は抑制され回避行動ということになります。従いまして、本来、利益と判定すべき甘味刺激に対してラットが回避行動を選択するためには、腹痛という不利益が偏桃体に入力され、これが何らかの形で条件付けされなければならないわけです。
次に、従来の古典的条件付けでは視覚や聴覚、痛覚といった知覚に対し、よだれや興奮、恐怖といった様々な組み合わせの条件反射が考えられました。ところが味覚嫌悪学習では、「味覚と内臓不調」という取り合わせが何故か選択的に形成されます。これは取りも直さず、我々動物にとって味覚というものが内臓を傷害から守るための城壁であるため、知覚とは異なる、何か「身体の防御機構」なるものが偏桃体にフィードバックされているからではないかと考えられていますが、果たして、この辺りがまだはっきりと解明されていないようです。
ですが、身体の防御機構とはいったいどのようなものか考えますと、例えば我々は寝ているときでも寝返りを打ちますし、暑ければ布団を跳ね除けます。このように、動物は寝ているときでも身体の防御機構を働かせ、無意識の内に反応を発生させているわけです。
サッカリン溶液と腹痛の条件付けは味覚嫌悪学習の発見に繫がったガルシア効果の実験ですが、麻酔を使ってラットを眠らせるというのは知りませんでした。私にはこの実験の意図をはっきりとは分かりませんが、もし実際に行われたとしますならば、もしかしたらそれは、只今挙げました、未だ不明とされる味覚嫌悪学習における特異的な特徴を確かめるためなのではないかと思います。
因みにこの場合は、少なくとも右脳機能うんぬんという話は全く無関係であると断言できます。
お礼
懇切ご丁寧な長文の御回答を誠に有難う御座いました。