文ではなく、不定句の語順こそが一番基本的なものだと考えれば何も問題はなくなります。
日本語-映画に行く
ドイツ語-ins Kino gehen
いずれも何の疑問もない表現です。しかし
英語-go to the cinema
絶対に to the cinema go ではおかしいのです。誰もそんなことは言いません。
同様に、ドイツ語では、gehen ins Kino という不定句はあり得ません。ドイツ人じゃなくても、それは気持ち悪いのです。
副文では不定句がそのままの語順で使われ、主文においてはその文の種類に応じて定形の位置が決まる。
不定句から動詞の部分だけが定形になって第2位とか第1位に飛んでいく。
分離動詞なら前つづりを残したまま飛んでいく。
それ以外の部分は文末に残り、定形との間で枠構造を形成する。
その場合にたまたま主語と基本的な不定句以外の要素がない場合に限り、Ich gehe ins Kino. という語順が現れるだけの話で、それが基本的なドイツ語の語順だというわけではないと言うことです。
定形は、平叙文とか疑問文とか、そういう文を作る役割のために決まった場所にいるだけで、いわば公用のために家から出ている形です。家の中ではかかあ天下でも、町内会長としては先頭に立つようなものです。
これは別に何かの文法書で読んだという話ではありませんが、このように考えたときにドイツ語は一番スッキリ理解できます。
生成文法の見方によるらしいのですが、あいにく専門外でよく分かりません。
ただ、SOV語順が根底にあると考えればいくつかの、ドイツ語に初めて接したときに感じる「疑問」の理由が分かる場合があります。
・nicht の位置
全文否定は原則的に nicht を文末に置きますが、nicht は否定する語の前に置くという原則もあり、また否定であることは早く言った方がいいのにと感じることがあります。
Er kommt heute nicht. 彼は今日来ない。
cf. 部分否定 Er kommt nicht heute. 今日は来ない
SOV にすると
Er heute nicht kommt.
Er nicht heute kommt.
全文否定とは動詞を打ち消すことですから、直後の語を否定するという原則に合っています。
・分離動詞
Er geht heute aus - Er heute ausgeht
・助動詞構文
Er ist gestern ausgegangen - Er gestern ausgegangen ist
・副詞(句)の順番
Er geht heute zur Schule - Er heute zur Schule geht
cf. 英語 He goes to school today.
動詞と nicht、分離動詞、助動詞と本動詞という本来結びつきが強いものをなぜ前と後ろに離すのか、また副詞(句)の順番において gehen との結びつきが強い方の zur Schule が後ろにあるのか(zur Schule gehen は「生徒である」という熟語でもあり)、は動詞を文末に置くとその「結びつきの強い」ものが隣り合うことが分かります。
また、副詞(句)や目的語は動詞を修飾するもの(連用修飾語)と見ることができるので、修飾語は被修飾語の前に置くという原則にもかなっています。
不定詞句の語順は、例えば (zu) gehen zur Schule が現れることがなく(不定詞は助動詞とともに使ったり、es を使った仮主語、仮目的語構文でも ,zur Schule (zu) gehen のように書かれるため)、ありえない形を辞書などに載せるのはかえって不自然と感じます。