敬愛する作家を「古臭い」と言われて、のこのこやってきました(笑)。
調べるんですね?
読書感想文じゃないですね?
なら、まず、映画をご覧になることをおすすめします。
『ある貴婦人の肖像』
ジェーン・カンピオンが監督して、ニコール・キッドマンが主演しています。
『鳩の翼』
ヘレナ・ボナム・カーターの主演です。
ヘンリー・ジェイムズ好きとしては、双方ともに文句がつけたい点も多々あるんですが、ジェイムズの作品の舞台背景は理解できるかと思います。
ヘンリー・ジェイムズはアメリカに生まれ、ヨーロッパで生涯の大半を過ごした作家です。
ほとんどの作品において、ヨーロッパという古い文化の中に生きるアメリカ人、というテーマを扱っています。
#1さんが書いていらっしゃる「意識の流れ」、これは哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズが『心理学原理』のなかで、「人間の意識は静的な断片の総合ではなく、たえず流れつづけている」と言ったのから始まっているんですが、この人はヘンリー・ジェイムズのお兄さんです。
さらに余談になりますが、夏目漱石はこのウィリアム・ジェームズの『心理学原論』を読みながら、後期作品の人間像を造型していった、と言われています。
ヘンリー・ジェイムズの取った手法というのは、
登場人物の動機や行動を直接にあきらかにしない(つまり、××はこう思った、○○は何をした、という描写がまったくない)、というものでした。
ですから、いったい何が起こったのか、さえ判然としない作品が非常に多い。
登場人物たちの会話を通して間接的に明らかにされるだけです。
こうした中では中編の『メイジーの知ったこと』が一番読みやすいのですが、これは七歳(手元に資料がないので正確ではありません)の女の子メイジーの視点を通して書かれたものです。
離婚した両親の都合で、メイジーはあっちへやられたり、こっちへやられたり。
で、両親や家庭教師、登場人物の大人たちそれぞれが、それぞれに恋愛を楽しんでいるらしい。
けれどもあくまでも視点はメイジーなので、具体的なことはなにひとつわからない。にもかかわらず、それぞれの人間性というものが、不思議なほど浮かび上がっている。
ジェイムズを知るにはうってつけの作品だと思います。
図書館に行くと、国書刊行会から出ているのがあるはずです(どうでもいい話ですが、この国書刊行会から出ているヘンリー・ジェイムズは一冊が\6,500もします)。
こういう手法を間接照明理論、と誰かが言っていたような気もするのですが、忘れました。正確ではないので、宿題には書かないでください。
でも、直接にスポットライトを当てるのではなく、間接的に登場人物たちを浮かびあがらせるジェイムズの手法をよく言い表していると思います。
もしミステリがお好きでしたら、バーバラ・ヴァインが書いた『階段の家』というミステリをおすすめします。
角川文庫なんで、ちょっと手に入りにくいかもしれないけれど。
これはヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』に題材をとったもの。オリジナルに較べて、格段に読みやすいです(で、なんとなく原作のエッセンスも味わえる)。
『鳩の翼』オリジナルは講談社学芸文庫からも新訳で出ています。国書のよりは訳が多少読みやすいかも。
『ねじの回転』、自分はこれを恐怖小説だと思ってわくわくしながら読んだのですが(小学生のときです。ませたガキだったんです)、読後何がなんだかわからないし、どこが恐怖小説だー、と腹が立ったのを覚えています。
中学生のとき、もう一度読んで、これは性的な行為があったことの暗示にちがいない、と確信したのですが、どうもよくわからなくてイライラしました(ませてても頭でっかちの中学生だったんです)。三読はしていません。
『黄金の盃』は、アメリカでもなかなか読む人はいないらしく、ポール・セローが日本滞在中に、電車の中で向かいの乗客がこの作品を読んでいて、日本人というのはたいしたものだ、と半ばあきれたように書いています。
自分もそのうち「たいしたもの」になろうと思ってはいるのですが、広辞苑並みの厚さの国書刊行会の本では寝転がって読むわけにもいかず、いまだたいしたことのない人間のままです。
以上脱線しつつあれこれ書いてしまいました。お役には立てないかと思いますが、映画はご覧になってください。