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水素のジュールトムソン効果における温度上昇に関する分子論
室温で水素を断熱膨張するとジュールトムソン効果により温度は上昇することを分子論的に理解したいと思っています。 しかし、ネット等で調べてみたんですが、いまいち要領を得ないのでここで質問させていただきました。 どなたかわかる方がいらっしゃいましたら、ご教示いただけませんでしょうか。 よろしくお願いいたします。
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- nonno_sea
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ちょっと興味を持ってネットでざっと調べたところ、参考HPが優れてました。なかなかすばらしい説明だと思います。
- ichiro-hot
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● かなり古いものですが、次の書籍に、ちょっと使える数値が載っていましたので、報告まで・・・ 『大学演習 熱学・統計力学 久保亮五他(裳華房)』 1)Van der Waalsの状態方程式について(p9) (p+a/v^2)(v-b)=RT ; v=V/n :1molあたりの体積 ※特に参考になったのは次の数値が掲載されていた点です。 この値は、各気体の臨界温度の実測値を元に,上記の状態方程式から得られる臨界点の公式に当てはめて求めたもののようです。 気体 a(atm・cm^6/mol^2) b(cm^3/mol) He 0.03415×10^(-6) 23.71 Ne 0.2120・・・・ 17.10 H2 0.2446・・・・ 26.61 N2 1.346・・・・・ 38.52 O2 1.361・・・・・ 32.58 CO2 3.959・・・・・ 42.69 H2O 5.468・・・・・ 30.52 ● 理想気体は∂U/∂V)_T =0 ΔH=H2-H1={U2+P2V2}-{U1+P1V1}=0;断熱変化(外部からの熱の出入りが0)で、気体が理想気体ならP1V1=P2V2に従うから、U2=U1,つまり体積変化による内部エネルギーの変化は無い。したがって、温度変化も無いはず。 ● 実在気体はこの理想気体からのずれを示す。その変化を良く表すことのできる式がVan der Waals状態方程式。このモデルは次のような仮説の上で作られている。(これは別の資料からです。)補正項a,bの値は次のような意味を持つものとして定められている。 補正項a ; 気体分子間に引力が働く場合には、気体が外部に対して示す圧力Pは気体内部の実際の圧力P´よりも小さくなっている。 気体内部の分子では他の気体分子からの相互作用は空間的に均等であるから各方向の影響は相殺されるが、外部に対る気体の圧力に関係する器壁に隣接する気体分子は,外部からの相互作用が無く気体内部にある分子のみから引力を受けるために圧力は小さくなる。その影響の大きさは『器壁に並ぶ分子の個数と、それに隣接する分子の個数に比例する』ため単位体積あたりの粒子の個数の2乗に反比例すると考えてよい。気体分子間の相互作用による補正項はa・n^2/V^2としてよい。P=P’-a・n^2/V^2だから、実際の気体内部の圧力P´は外部から観測される気体の圧力Pに対して、P´=P+a・n^2/V^2になる。 補正項b ; 実在気体は質点ではなく大きさをもつ。実際に動きうる空間はその分子の大きさを除いたものになる。1モルあたりの気体の体積をbとするとV’=V-nbとしてよい。 ヘリウムや水素などは相互作用が小さく(aが小さいことに対応)、剛体球モデルによって良く近似されることが知られています。 ● ずれの大きさを見積もることができる。 #1さんがジュール・トムソン係数の計算式を挙げています (ΔT/Δp)_H={T・(∂V/∂T)<p> - V}/Cp・・・(1) Van der Waals式から次のように(∂V/∂T)<p>が近似できて、ジュール・トムソン係数(ΔT/Δp)_Hが求められます。 (p+a/v^2)(v-b)=RT ; v=V/n より (p+n^2・a/V^2)(V-nb)=nRT p=nRT/(V-nb)-n^2・a/V^2=(nRT/V){1/(1-nb/V)}-n^2・a/V^2 =(nRT/V)・{1+nb/V+(nb/V)^2+・・・}-n^2・a/V^2 ≒(nRT/V)・{1+nb/V}-n^2・a/V^2 ;1/V^2までの近似で求める。 =(nRT/V)+{n^2・(RTb-a)/V^2} pを一定としてTについて微分。(VはTの関数とする。) 0=nR/V-{nRT/V^2}(∂V/T)_p+n^2Rb/V^2+n^2(RTb-a)・(-2/V^3)・(∂V/T)_p これを整理して, (∂V/T)_p=(V/T)・{(1+nb/V}/{1+2n(RTb-a)/RTV} =(V/T)・{(1+nb/V}/{1+2n(RTb-a)/RTV} =(V/T)・{(1+nb/V}×{1-2n(RTb-a)/RTV+・・・} ≒(V/T)・{(1+nb/V}{1-2n(RTb-a)/RTV} ≒(V/T)・{(1+nb/V-2n(RTb-a)/RTV} =(V/T)・{(1+(n/V)(2a/RT-b)} これを(1)に代入, (ΔT/Δp)_H={T・(∂V/∂T)<p> - V}/Cp =(n/Cp)・[T・(V/T)・{(1+(n/V)(2a/RT-b)}- V] =(n/Cp)・(2a/RT-b) これから,逆転温度T_iでは(ΔT/Δp)_H=0になることから 2a/RT_i-b=0より, T_i=2a/Rb が得られます。 ●ジュールトムソン効果の逆転温度と温度変化 (ΔT/Δp)_H=(n/Cp)・(2a/RT-b) T2-T1=(n/Cp)・(2a/RT-b)・(P2-P1) とかけるので、P2-P1<0より, T<T_iでは2a/RT-b>0だからT2-T1<0 ∴T2<T1 T_i以下の温度では温度の低下が起こる。 T>T_iでは2a/RT-b<0だからT2-T1>0 ∴T2>T1 T_i以上の温度では温度の上昇が起こる。 a,bに用いて有る単にが古く、単位の換算が大変ですが、上のa,bを用いてT_ iを求めてみると,次のようになりました。(ここはかなり心配です) He・・・35.1K Ne・・・302.7K H2・・・224.0K N2・・・851.7K O2・・・1020K CO2・・927.4K 臨界温度という別の測定値によって求めた値としては,この結果は『傾向としてよい値』になっていると思いますがどうなのでしょうか。 以上から,常温の条件下ではHe,H2では温度上昇が起こるが、N2,O2,CO2では温度降下が起こるという結果が得られます。「相互作用の大きな気体では逆転温度が高く、そのため通常の温度で温度降下が起こる」が、「相互作用の小さな気体は逆転温度が低く温度上昇が伴う」という結果が得られます。 以上、『低温側の逆転温度』についてはこのような近似で求められるようですが、実在気体ではさらに『高温域でもう1つ逆転温度が有る』という実験結果が得られているようです。この(1/V^2)までの近似ではそのことは出てきません。さらに高次項の計算を行えばそのような結果が得られるかどうかということについてはこの中ではなにも触れてありませんでした。 このあたりが、私自身の限界かと・・・・ 方々に書いてあることをまとめ数値も電卓計算によるもので、その点はオリジナルです。計算ミス等が有ると思います。その際はご容赦ください。
No1. lycanです。 >ところでジュール-トムスン効果による多少の温度上昇は、断熱膨張(ΔU=W<0)による温度降下が打ち消してしまいそうな気がしますが? 自分で書いた疑問の解答を得ました。断熱膨張に比べ無視できる程度のようです。 改訂版高等学校物理1・II教授資料 http://www.chart.co.jp/goods/kyokasho/20kyokasho/rika/butsuri/kyoujushiryo/images/kyouju_print.pdf このpdf(1枚)の右上小図を拡大し読み取ったものを転記します。 ------- (質問・回答)スプレーやボンベが気体を噴出させると冷える原因は何か。 回答 冷たくなるのは理想気体の断熱膨張が主な原因である。(中略)内部エネルギーを失って温度が下がる。これは理想気体の断熱膨張である。 ジュール-トムソン効果による温度降下もあるが、その寄与は僅かである。 たとえば、300Kの気体の体積を断熱的に2倍にする場合について、理想気体の断熱膨張による温度降下とジュール-トムソン効果による温度降下とを比べてみよう。理想気体の断熱膨張の場合はTV^(γ-1)=一定であり、窒素や酸素のような二原子分子気体を考えると、γ=7/5であることを用いて T・(2V)^(2/5)=300・V^(2/5)、 T=300×2^(-2/5)=227(K) つまり、300-227=73(K) 温度が下がることになる。 一方、常温常圧付近で断熱自由膨張をさせ、体積を2倍にして圧力をほぼ半分にした場合、窒素や酸素に対するジュール-トムソン効果による温度降下は、0.2~0.3Kであることが知られている。 -------- ボンベはともかく、スプレー(洗面台にあり、振ると中で液体がシャラシャラする)の場合は、僅かな質量を噴霧するだけで缶の表面が結露するほど冷えます。 これほどの熱量放出は相転移以外考えられない。断熱膨張よりは、主に気化熱を失うためでしょ、と思います。 (No1.訂正) Air,N2,O2,CO2などでは室温で温度効果が起きる→温度降下が起きる
補足
ご丁寧なご回答ありがとうございます。 確かに、断熱膨張に比べてジュールトムソン効果による影響は小さいかもしれませんが、圧力減少度がたとえば、20MPaから大気圧と非常に大きい場合には、ジュールトムソン効果の寄与分もそれなりにあるかと思います。(今、ジュールトムソン係数が調べ切れていないので具体的な数値は言えませんが・・) また、断熱膨張は分子論的に考えると、分子間距離が大きくなりファンデルワールス力に起因するポテンシャルエネルギーが増大し、分子の運動エネルギーが減少し(内部エネルギー一定より)、結果、温度が下がると理解できると思います。 最初の質問に戻りますが、水素に限らずジュールトムソン効果は分子論的にどのように理解すればいいのか悩んでしまいますね。。。
分子論的とのことで、回答の域に達しませんが、ご参考に。 [理化学辞典3版より要約] ■ジュール-トムスン効果 (Joule-Thomson effect) 断熱管の一端に綿栓を詰め、他端から気体を送り込むと、細孔を通りゆっくり気体が抜け出し、細孔通過後に圧力はΔpだけ下がる。 理想気体では細孔通過で温度変化は起きないが、実在気体ではΔpに比例する温度差ΔTを生じる。 ΔT=Δp{T・(∂V/∂T)<p> - V}/Cp・・・(1) ΔT/Δpをジュール・トムスン係数という。 一般にある温度以下では温度低下が起き、以上では温度上昇が起きる。 この堺の温度、つまりジュール・トムスン係数が0となる温度を、その気体の逆転温度という。 Air,N2,O2,CO2などでは室温で温度効果が起きる。 H2の逆転温度は-80℃、Heでは-173℃である。 --------- つまり、実在気体の中で水素とヘリウムだけは、室温で断熱膨張したとき、ジュール-トムスン効果では、温度が上昇することになります。 分子論的ではなく熱力学的に理解、なら、H2 とHe のVan der Waals方程式(どこにあるかは知りません)を(1)に代入し、(∂T/∂p)<V>=0 から H2→-80℃を導けると思います。 (1)式が本当に成り立つかについては、お調べ下さい。 ところでジュール-トムスン効果による多少の温度上昇は、断熱膨張(ΔU=W<0)による温度降下が打ち消してしまいそうな気がしますが?
補足
ichiro-hotさん お返事が遅くなり大変申し訳ございませんでした。 そしてご丁寧なご説明ありがとうございました。 J.T.係数の算出の仕方が良く理解できました。 逆転温度が高温領域でもうひとつ存在するという事には興味がありますね。 ちなみに繰り返しになって恐縮ですが、 「相互作用の小さな気体は逆転温度が低く温度上昇が伴う」とありますが(その逆も含む)、温度上昇が生じる理由はなぜでしょうか。式の上でそうなるのは理解できるのですが、では分子に着目した場合、温度上昇するために得られたエネルギーはどこから来るものでしょうか。