補足説明ありがとうございます。
素直に聞き入れてくださる方で、本当に良かったと、嬉しく思っています。
1
>おはし…動詞サ変連用形。→○
>たる…助動詞連体形。→○
>なめり…助動詞連体形+助動詞終止形。→△
「たる」は、完了または存続(意味はどちらか、文脈がないと分かりません)の助動詞「たり」の連体形ですね。
次の「なめり」は、まず、「な」「めり」と品詞分解します。
「めり」は、たぶんお分かりのとおり、推定の助動詞「めり」の終止形です。
では、「な」は何か、ということですが、これは、「たる」が連体形で接続していますので、断定の助動詞「なり」です。
それが「めり」に接続する為に何形をとっているか。
「めり」は終止形接続の助動詞ですよね。
でも、「終止形接続」とは、要するに「ウ段接続」のことですから、終止形がウ段にならない「ラ変族」は、ウ段の出る連体形で接続する、という、言わば「宿命」を負っていますね(「ラ変族」については後述)。
断定の助動詞「なり」は、「り」で言い切りですから、ラ変型の活用を起こす助動詞。
ですから、これが連体形で「めり」に接続している、という、質問者さんのお考えは、ここまでは合っています。
良く理解なさっていると思います。
さて、そこで、もう一つプロセスがあり、そこまで説明しなければ、品詞分解して文法説明したことにならないんです。
「なり」の連体形で「なる」のはずが、どうして「な」になっているのか。
「る」はどこへ行ったんだ。
これは、
なるめり
↓(「る」の撥音便)
なんめり
↓(「ん」の無表記)
なめり
というプロセスを経た結果です。
ですから、「な」については、「断定の助動詞『なり』の連体形『なる』の撥音便『なん』の『ん』の無表記」と、ここまで述べなければならないんです。
「んの無表記」については、この「無表記」という用語をしっかり覚えてくださいね。
「省略」とか「脱落」とか、どうかすると「消えた」とか言う学生がいて、その度に、「無表記!!!」と言い直させます^^;
古文ではしばしば起こる現象で、例文のように「なめり」「ななり」と表記されていますが、「ん」は「表記されていない」だけで、歴然と「ある」ので、音読する時には、「なんめり」「なんなり」と読まなければなりません。
「撥音便→んの無表記」の起こった後に接続している「なり」や「めり」は、全て「推定」です。
(「んの無表記」という現象がなぜ起こるかの考察は、後述)
訳は、
「いらっしゃったのであるらしい」
(「たる」を存続で訳せば「いらっしゃっているのであるらしい」)
です。
2
おはしたるめり
これは、何の問題もありませんね。
>おはし…動詞サ変連用形
>たる…完了または存続の助動詞「たり」連体形
>めり…推定または婉曲の助動詞「めり」終止形
です。
訳は、
「いらっしゃったらしい」
(「たる」を存続で訳せば「いらっしゃっているらしい」)
です。
3
>おはし/た で
>自動詞+格助詞…??→×
「た」という格助詞はありません。
「なめり」が何かは、1番で理解されていますよね。
「な」は「断定の助動詞『なり』の連体形『なる』の撥音便『なん』の『ん』の無表記」でしたね。
では、断定の助動詞に接続している「た」は何か?
断定の助動詞「なり」は、体言または連体形接続の助動詞ですね。
では、「た」は、何かの連体形であるはずです。
また、「た」の直前の「おはし」は、サ変動詞「おはす」の連用形ですから、「た」は、とにかく連用形接続の何かだ、ということが分かると思います。
実は、完了または存続の助動詞「たり」の連体形「たる」なのです。
「たり」の連体形で「たる」のはずが、どうして「た」になっているのか。
「る」はどこへ行ったんだ。
この疑問には、もう、あなたは答えを持っていますよね。
そう、1番で起こった
たるなるめり
↓(「る」の撥音便×2)
たんなんめり
↓(「ん」の無表記×2)
たなめり
というプロセスがここでも起こっているということなんです。
ですから、訳は、結局「おはしたるなめり」と全く同じ、となるのです。
4
>土つきたり は
>動詞+格助詞+助動詞 の格助詞があるかないかの違いで、
>意味はたいして変わらないと思っています。→×
「に」は、ここでは格助詞ではありません。
「つきにたり」の「つき」は、何の何形ですか?
カ行四段活用の動詞「つく」の連用形ですよね。
格助詞の「に」は、体言か連体形に接続する性質を持っていて、連用形には接続しません(ただし、動詞の連用形がそのまま「転成名詞」になった場合がありますから要注意)。
さらに、「に」の直後の「たり」は、お分かりのとおり、完了または存続の助動詞「たり」の終止形です。
完了または存続の助動詞「たり」は連用形接続ですから、「に」は、とにかく何かの連用形であるはずです。
「連用形接続であって、それ自身の連用形に『に』の形をもっているもの」ということは、これは、「完了の助動詞『ぬ』の連用形『に』」だということになります。
完了・強意・並立の助動詞「ぬ」は、「死ぬ」「往ぬ」と同じく「ぬ」で言い切りですから、「ナ変型」の活用を起こす助動詞ですよね。
ですから、「な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね」と活用し、連用形は「に」で文句なし決まりです。
ですから、
「土つきにたり」は、
土…名詞
つき…カ行四段活用動詞「つく」の連用形
に…完了の助動詞「ぬ」の連用形
たり…完了または存続の助動詞「たり」の終止形
となります。
訳は、「土がついてしまった」
(「たり」を存続で訳せば、「土がついてしまっている」)
です。
5
「土つきたり」は、4番の「に」のないもの、すなわち、完了の助動詞「ぬ」の連用形が入っていないもの、ということで、
土…名詞
つき…カ行四段活用動詞「つく」の連用形
たり…完了または存続の助動詞「たり」の終止形
ですから、訳は、
「土がついてしまった(「土がついた」でも可)」
です。
答えだけポンと提示するのは簡単なことですが、それでは、たぶん、文法力の向上にも何にも役に立たないし、また同じような質問をここでなさることになるだろうと思いましたので、きちんと解説したく思い、うるさがられることを承知で、補足要求をさせていただきました。
快く受け入れてくださり、ほっとしています。
付録
*「ラ変族」=「り」で言い切りの形をもっているもの。
1、ラ変の動詞=あり・をり・はべり・いまそかり&ありの複合動詞
2、ラ変型の活用をする助動詞=過去の助動詞「けり」、完了の助動詞「たり」「り」、推定の助動詞「なり」「めり」
3、形容動詞(ナリ活用・タリ活用)
4、形容動詞型の活用をする助動詞=断定の助動詞「なり」「たり」(ほんとは、「ごとくなり」とか「べらなり」とかいう助動詞もありますが、高校の教育課程では教えません)
5、形容詞(「し」で言い切りなのに?→補助活用の「から/かり/(かり)/かる/○/かれ」がラ変に似ているのでこれもラ変族に入るのです)
6、形容詞型の活用をする助動詞=推量の助動詞「べし」、希望の助動詞「たし」「まほし」、打消推量の助動詞「まじ」
*「ん」の無表記がなぜ起こるのか?
私もずっと疑問だったのですけど、子供をもって、書き取りをやらせていたときにはっと気付きました。
子供は、「サッちゃんはね、サチコっていうんだ、ほんとはね」と表記すべきところを、しばしば、「さちやわね、さちこていうだ、ほとわね」などと表記します。
「コチコチカッチン、お時計さん」と書かせると、「こちこちかち、おとけいさ」などとなる場合が見られます。
つまり、日本人の耳には、「ん」と言う「はねる音」は、音節として意識されにくいんですね。
早い話が、「聞こえてない」。
それで、「無表記」という現象が起こり得るなのだなあ、と・・・これは、私の個人的な見解ですが。
お礼
無表記のことを忘れてました・・・笑 ありがとうございます。