私も正孔は不思議です。
半導体デバイスの動作では、正孔は全く電子と同等に振る舞います。自由電子と全く同じ存在感があります。正孔(Hole)は電子が抜けた穴(孔)という説明では、どうも実感がわきません。
有効質量という概念についてもイメージが掴めません。例えば、電子の有効質量は、いずれの半導体でも電子の質量よりも小さいですが、原子の集合体の中を動く電子は真空中よりも動き難いだろうから、実効的な質量は自由電子よりも大きいと考えるのが自然ではないでしょうか。常識でないことが起こっているのが量子力学の世界なのかも知れません。それならば、漫画チックなモデルでもいいから、何故、そのようなことが起こるのかという説明があってしかべきだと思います。
また、以下に述べる事柄の説明を探しても見つけることができませんでした。
(1) バイポーラトランジスタとかpnダイオードが大電流密度動作をしている際には、平衡状態の4桁以上の電子と正孔が(ほぼ同数)同時に存在する状況が珍しくありません。正孔が単なる孔ならば、なぜ電子が速やかに穴に落ち込んでしまわないのでしょうか?
(2) 電界(E)中の電子とか正孔の振る舞いは、運動量緩和時間(τ)と有効質量(m*)をパラメータとしてドリフト速度(vd)で特性づけられます。(ドリフト速度は、大まかには有効質量に反比例しているといえます)
vd=μ・E= (q・τ/m*)・E (μ:ドリフト移動度, q:電荷素量)
電界(E)が大きくなると、両者のドリフト速度(vd)は電界強度に依存しない一定値(飽和速度)になります。正孔のドリフト速度(vd)は電子よりも一般に遅い(シリコンの場合は約1/3)のですが、飽和速度は電子とほとんど同じです。
正孔が穴ならば、エネルギーの高い状況で、電子との挙動の差は大きくなると思うのですが...。
(数~数十Kの極低温では、両者のドリフト速度(vd)もほぼ同じ値になるという実験データの報告もあります)
(3) いっそう電界(E)が強くなると、運動エネルギーが大きくなった電子や正孔は、半導体原子に衝突しては最外殻電子を電離します。正孔が電子の穴であるならば、当然、この現象の頻度は正孔よりも電子の方が大きいと思えます。確かにシリコンではそうなってますが、ゲルマニウムとか最近話題のSiC(シリコンカーバイド)では、正孔の頻度の方が大きいのです。
大げさな話になりますが、量子力学の素人に対しては、半導体中での電子と正孔の関係は、真空中での電子と陽電子の関係と対比しての説明があってしかるべきと思います。陽電子は、始めは「(電子の一杯つまった)真空中の孔」という説明がなされてました。この説明は、各々の素粒子に対して一般的に反粒子が存在することが明らかになって、妥当でないとされたそうです。
私は、現在の「正孔(Hole)は電子が抜けた穴(孔)」というモデルは、陽電子の初期モデルのように何か本質的な要素を見逃しているように思えます。