こんな証拠はどうでしょうか。
ラテン詩の韻律は【長い音節】つまり長母音を含んだ音節または短母音に複数の子音が後続する音節と、【短い音節】を一定のパターンで繰り返すことで生み出されます。
古典期の韻文で音節の長さを(短長短)と読むべき箇所にvehebatという単語が当てはめてあります。この場合hはまちがいなく子音としての音価を持っていたのだと想像できます。でなければ"ウェーバt"(長短)のように発音が変化していたでしょうから。
もっとも語頭のHが発音されていなかった証拠もたくさんあります。
inliditque vadis atque aggere cingit harenae
Unam quae Lycios fidumque vehebat Oronten
(ウェルギリウス アエネイス1巻112行)
cingit harenae キンギタレーナエ (-vv--)では、「t+h」は「複数の子音」ではなく「ひとつの子音」として扱われています。そしてそのすぐ次の行には問題のvehebat ウェヘーバt (v-v)が出てくるのです。
かと思うと同時代の文章でvehemensがvemensと綴られているようなこともあります。
おそらく古典期にはかなりHの発音は衰退していたのでしょう。しかし古い発音についての知識を残そうとする努力も同時に続いていた。だからこそ現代フランス語にまでしぶとく綴り字上のHが生き残ったとは考えられないでしょうか。