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芥川龍之介「地獄変」
1.語り手の存在の意味 2.大殿も良秀の対立の理由 3.猿の存在の理由 4.夢にどんな意味があるか 5.良秀の地獄変屏風取り組みの過程 6.強姦未遂の娘の姿の意味 7.大殿に願い出た真意は 8.娘を殺そうとしたものは、誰か 9.「雪解の御所」の意味 10.地獄変で良秀は何を描きたかったのか? そして、描くことは、できたのか? 11.良秀の死の理由 これらの質問について知っていれば教えてください。
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- Nakay702
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興味あるご質問をありがとうございます。 勘違いしている部分があるかも知れませんが、以下のとおりお答えします。 >1.語り手の存在の意味 ⇒筆者の想像や創作などでなく、現実に起った事件に直接立ち会った者が語る(という形をとる)ことで、信憑性が付加されるという効果があると考えられる。ちなみに、語り手は大殿の臣下の一人と思われる。 >2.大殿も(→と)良秀の対立の理由 ⇒大殿の御側に仕える娘を、ぶしつけに「何卒私の娘をば御下げ下さいまするやうに」と主張する良秀に対して大殿が腹を立てたため、両者間に対立が生まれた。それというのも、実は大殿は良秀の娘が大いに気に入っているので、手放したくないのである。 >3.猿の存在の理由 ⇒良秀の娘がこの猿を可愛がることで、かえって娘の存在が引き立つ。また、この猿が娘の父と同じ「良秀」と呼ばれていることによって、いろいろな場面で、娘の父としての良秀の映像が読者の心に浮かぶ。逆に言うと、猿の存在がこれらの状況や現象呼び起す役を果たしている、ということになる。 >4.夢にどんな意味があるか ⇒良秀が、よい絵を描きたいばかりに、愛する娘を地獄変屏風描きのモデルにして、愛娘の焼け死ぬところを見ようなどという、恐ろしいことを考える良秀自身の葛藤を暗示している。娘に対する愛と、絵師としての仕事に対する欲との間で板挟みになって苦悩している様子が、夢のうわ言に暗示されていると解釈できる。 >5.良秀の地獄変屏風取り組みの過程 ⇒実際の地獄風の場面を実地検分しながら描く。いや、そもそも実地の見聞なしでは描くことができない。いわば、一種の「模擬演習」が必要なのである。現実世界に実存しない想像上の光景であってみれば、他に方法がなかろう。そこで、良秀は、ある時は弟子を鎖で縛り上げ、またある時はミミズクに襲わせるなど、狂人さながらの行動をとる。ほとんど死に直面した弟子の恐怖心は尋常でない。 >6.強姦未遂の娘の姿の意味 ⇒近くの部屋で人の争つているらしい気配の中から、しどけなく乱れた袴や袿のままで飛び出してきた娘は、その姿からして、大殿に手籠めにされかかったことや、それを拒んで抵抗したであろうことがうかがわれる。 >7.大殿に願い出た真意は ⇒絵は8割がた出来上がったけれども、どうしても肝心な仕上げの部分が描けない。燃え上がる牛車の中で悶え苦しむ女の姿を加えたいが、実際に人が断末魔に悶える場面を見分しないと描けない、というのが良秀の本音である。それで、その場面を実演してほしいと大殿に訴える。その際の人身御供として娘を指し出すという意表をしたかどうかは判然としないが、話を聞いた大殿は、その申し出を異様な笑みを浮かべながら受け入れる。 >8.娘を殺そうとしたものは、誰か ⇒娘を殺そうとしたものは良秀自身、または良秀と大殿との共謀の結果かも知れない。後者であれば、まず良秀が提案し、大殿がそれに乗った、という成り行きが推測される。 >9.「雪解の御所」の意味 ⇒荒れ放題に荒れ果てて、昼なお暗く寂しい、気味の悪い雪解の御所であればこそ、それは、現実に地獄の場面を具現するにふさわしい、またとないところである、といったことを示唆する。 >10.地獄変で良秀は何を描きたかったのか? そして、描くことは、できたのか? ⇒良秀は「本物」の地獄絵図を描きたかったし、描くことができた、と結論できる。ただし、とてつもない犠牲を払って…。 >11.良秀の死の理由 ⇒自分の娘を殺めたことに対する呵責と、あの世での再会を願ったためであろうと考えられる。 関連して、以下に補足を2つ付記します。 補足1:「良秀の妻」に関する言及がないことについて 全編通して、良秀の妻に関する言及はないが、娘がいるからには妻もある(あった)はずである。言及する必要がなかったのかも知れないが、触れてもおかしくない場面はあると思う。例えば、良秀の奇行と妻の関係(愛想を尽かして別れたなど)や、良秀の自死とその前後の妻の振る舞い、およびその後の妻の消息などについてほんの1,2行触れられていても、ごく自然な流れに感じられるのではないでしょうか。私は、個人的には、むしろ1行なりと触れてあって欲しいと思いました。 補足2:この小説の底本について 井上靖「宇治拾遺物語と芥川の作品」(日本古典文学大系37付録、岩波書店)によると、《「地獄変」は宇治拾遺と古今著聞集の二つに載っているそれぞれ異なった説話を一篇の小説作品にまとめ上げたものである。》という。そこで私は、底本の一つとなった、宇治拾遺を紐解いてみた。すると、なるほど、短い。「絵仏師良秀家の焼(やくる)を見てよろこぶ事」と題するこの小品は、たったの15行で完結するお話でした!