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心電図 P波とQRS波の正常下限について。
P波やQRS波の正常時間は0.06~0.10秒で、P波やQRS波の時間 (幅) が短いことは臨床上問題とならない (QRS波に至っては幅が狭いのが正常) そうですが、 ならば、なぜわざわざ正常値の下限が設けられているのでしょうか?
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循環器の医師です。他のご質問にもご回答しましたが、心電図について非常によく勉強しておられますね。 まず医学的な一般論ですが、正常値というのは多数の健常な個体における計測データを蓄積したもので、それを逸脱すると、まず「まれ」であることは間違いありませんが、それが直ちに生体にとって「不都合」ということではありません。ですから、今回話題にしておられるQRS幅(生理学的には心室の最も早く興奮した場所と最も遅く興奮した場所の時間差)に関しては、幅が広いとポンプとして都合が悪くなりますが(心室の壁の動くタイミングがずれるということになりますので)、狭くなる分にはあまり都合が悪いことは起こらないというのが理屈です。この数値については正常値の下限が健常と病気の境目ではないということです。ただ、現実的には起こり得ませんが、心室がゼロタイミングで一気に興奮するとややまずい状態になります。正常の左心室は、ラグビーボールの様な形をしていますが、コロネパンの様な形を想像していただいてもいいかもしれません。このコロネパンの中身を効率的に押し出すには、コロネの細い所から握り始め、次いで真ん中、最後に出口を絞るのがいいだろうというのは感覚的にお分かりと思いますが、現実の心臓でもまさにこのような順番で興奮が起こっています。仮にゼロタイミングでコロネの尻尾も真ん中も出口も同時に絞ったら、中身はあまり効率的に外に出ず、一部の壁には無理がかかってしまうのもお分かりと思います。この様な不都合が起こるようなタイミングで一気に心室壁が興奮してしまう病態は存在しないので「QRS幅が狭くなったらマズイ」という解説は医学的にはあまりないのです。ちなみに、英語では正常幅のQRSをnarrow QRSと表現するので混乱を招きますが、邦語の正常幅QRSと医学的には全く同義です。
お礼
懇切丁寧に回答して頂き、理解が深まりました。大変有り難う御座いました。