>何故 s(ア:エ)を前後の音節で逆転させるのか
⇒ひと言で言うと「アクセントとの関係」で、「逆転のように感じられる現象」が起きたからである、と言えると思います。
日本語のような「ピッチ(高低)アクセント」と違って、「ストレス(強弱)アクセント」を持つ英語では、アクセントの存否が調音にも聴覚上にも大きな違いをもたらすようです。
例えば、democracyを〔デモクラシー〕のように発音すると、ネイティブは「?」という顔をしますが、(日本語の音韻に対応させるとそうなることを説明すると)、それならむしろ、アクセントのかからないところを端折って〔(デ)モクラスィ〕のように言うほうが分かりやすい、と聞いたことがあります。
express [ikspre's] の、[pre's] に当たる部分はアクセントのかかる音節ですので、実際の調音は [prε's] となり、強調の度合いに応じて [iksprε':s] と延ばしたり、「ア」に近づいたりすることがありますね。他方、[iks] に当たる部分はアクセントのかからない音節ですので、実際の調音は [iks], [eks], [əks] などの異音として実現される可能性があります。
これをカタカナで表せば、〔(イクス)プレス、(エクス)プレス、('クス)プレス〕などとなりますね。我々日本人は概ね〔エクスプレス〕と言いますが、ネイティブは〔'クスプレス〕、つまり、非アクセント部の母音をあいまい母音風に調音をすることがよくあります。(調音上の「無意識の経済化」と言えるかも知れません。なお、この〔'〕と表記した部分は、聞こえるか聞こえないような [ə] の代用のつもりです。)
さて、肝心なsuccessですが、これの発音記号は [səkse's] ですね。[se's] に当たる部分はアクセントのかかる音節ですので、実際の調音は [sε's] となり、強調の度合いに応じて [sε':s] と延ばしたり、「ア」に近づいたりすることがありますね。音響スペクトログラフを見て分かったことですが、これら強勢の [ε'] や [ε':] の発音時間は1000分の3~5秒くらいで、この「時間の延び」が、余計に聴覚上の「ア」に近い印象を与えるようです。
他方、[sək] に当たる部分はアクセントのかからない音節ですので、実際の調音は [sək], [sʌk], [s'k] などの異音として実現される可能性があります。つまり、カタカナで表せば、〔(セク)セス、(サク)セス、(スク)セス〕などとなります。我々日本人は概して〔サクセス〕と言いますが、ネイティブは〔セクセス〕または〔スクセス〕、つまり、非アクセント部の母音を「あいまい母音と似た音」に調音することがよくあります(やはり調音上の「無意識の経済化」と言えるでしょう)。これら弱勢の [ə], [ʌ], ['] などの発音時間は1000分の1~2秒くらいで、この「調音の短さ」が聴覚上余計にサ行のぼやけた音「セ」や「ス」に近い印象を与えるようです。(日本語の音韻構造、日本人特有の聴覚映像がそう感じさせる要因の一つかも知れません。)
以上述べたような意味で、「s(ア:エ)を前後の音節で逆転させる」と感じられたのは、日本人として正確な音感による聴取の結果と思われて、敬服申しあげる次第です。
お礼
音声学に詳しい方が分析くださったことに対して深謝申し上げます。 >むしろ、アクセントのかからないところを端折って〔(デ)モクラスィ〕のように言うほうが分かりやすい おおっ、これは私が考えておることなのです。 同じ意見を聞けて実に嬉しく存じます。 〔'クスプレス〕は私もこのように発音しております。 問題の語の前後2音節の時間分析に感謝します。 量的な根拠で気分が良くなりました。