変形は、ほぼ曲げモーメント由来のものですから、リング径の効果は、集中荷重梁のたわみ式と同じく、長さの「3次」である事が推測されます。モーメントは腕の長さに比例、各部変位曲率はそれに比例、偏角は曲率に長さを乗じたものとして生じ、たわみは、さらに腕の長さを乗じたものとなるからです。つまり極端な変形量でない限り、荷重 P に対し変位寸法δは、
δ = k R^3 P 、あるいは、もう少し係数を分離して、
δ = k' R^3 /( E I ) P ここで E:ヤング率、I:薄板の断面二次モーメント
という具合になります。k' が形状由来の固有係数である事に注目して下さい。一つ前のご質問に触れておきましょう。このような考察によって式の形を推測、k や k' を実験的に求めれば、実験式の位置づけになります。一方後述のように式の形を含めて導出すれば、精度に拘わらず、理論式扱いでしょう。
例題など導出過程は私も探し出せませんでしたが、
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1393746303
から、前記 k' = 0.149 であることが判明しました。答あわせができる事は、理論値導出の励みになりますね。
「便宜上、以下の記述ではδは直径 2R に対してではなく、半径 R に対してのものとし、またリング径の減少方向を正にとっています。ご質問の設定では「外周のある1点に集中荷重」となっていますが、一点では静止させられませんから、添付図のように、集中荷重 P は対称二点に作用させます。便宜上θは垂直軸起点に時計回りに取ります。薄板に垂直なせん断力成分、すなわち径方向せん断力成分は明快、積分値としての各部曲げモーメントも容易に表現できるのですが、この問題が単純梁に比べ厄介なのは、開放端が存在せず、積分定数が自明でない事です。積分定数決定の工夫として、荷重点変位に基づく外部仕事と内部歪エネルギの等式を併用しました(唯一の方法ではありません)。
せん断力の径方向成分:τ(θ) = - P /2 cosθ (図の第一象限にのみ適用)
よって曲げモーメント:M(θ) = ∫ τ(θ) R dθ = - P R /2 sinθ + Mo
Mo は積分定数で集中荷重点における曲げモーメント。両辺 EI で除し、変位曲率として表現すれば、
φ(θ) = - PR/(2EI) sinθ + φo (図の第一象限にのみ適用) ---- (1)
内周が伸び外周が縮む状態が φ(θ) の正方向、また積分定数 φo は集中荷重点における変位曲率、式はリングが横長ににつぶれる様子を示しています。
荷重Pに対する応答変位量δが線形とみなせる場合、外部仕事は Pδ/2 で、内部歪φ(θ)のエネルギとの関係式は、図の第一象限分において、
Pδ/4 = ∫[0,π/2] EI φ(θ)^2 /2 R dθ 、整理して、
δ = 2 EI R /P ∫[0,π/2] φ(θ)^2 dθ ---- (2)
一方、 変位δを各部変位曲率φ(θ)の累積として幾何学的に求めます。上下対称軸上(x 軸)では 水平方向変位はあっても 垂直方向変位は無い事に着目、各部偏角 φ(θ)R dθ は腕の長さ R sinθ をもって垂直方向変位に寄与するので、
δ = - R^2 ∫[0,π/2] sinθ φ(θ) dθ ---- (3)
式2と式3のδを等しいと置けば、以下のようにφo を求める事ができます。式2に式1のφ(θ)を代入すると、
δ = ∫[0,π/2] P R^3 /(2EI) (sinθ)^2 - 2R^2 φo sinθ + 2EI R /P φo^2 dθ ---- (2a)
式3に式1のφ(θ)を代入すると、
δ = ∫[0,π/2] P R^3 /(2EI) (sinθ)^2 - R^2 φo sinθ dθ ---- (3a)
式2'から式3'を積分前に差し引くと、かなりの部分相殺されて、
∫[0,π/2] 2EI /P φo - R sinθ dθ = 0
積分後、
φo = P R /(π EI ) ---- (4)
が求まります。式3a の積分は、
δ = πP R^3 /(8EI) - R^2 φo ---- (3b)
で、これに式4のφoを代入すれば、
δ = (π/8 - 1/π) P R^3 /(EI) が、得られます。
直径あたり、2δ = 2 (π/8 - 1/π) P R^3 /(EI)
です。2(π/8 - 1/π) = 0.1488 で、前述URLに見られた数値と一致します。
ところで、
http://www.geocities.jp/moridesignoffice/ring.html
には任意点での直径変化が記載されています。これも導出してみましょう。計算式3の理屈を以下の手順で任意点に一般化すれば良いのです。ここでは、下方変位、左方変位、半径の減少変位を正符号としています。
θ部位の垂直移動:δy(θ) = -R^2 ∫[θ,π/2] (sinα - sinθ) φ(α) dα
θ部位の水平移動:δx(θ) = -R^2 ∫[0, θ] (cosα - cosθ) φ(α) dα
そうして、
θ部位の半径減少:δr(θ) = δy(θ) cosθ + δx(θ) sinθ
= P R^3 /(EI) ( (1/4) sinθ + (π - 2θ)/8 cosθ - 1 /π )
と計算できます。URL内容との一致が確認できました。
例題が見つからなかったとの事ですが、確かにそうですね。やってみて感じましたが、試験や演習問題に不向きなのかもしれません。立式に困難は無く、計算も単調ですが、しかし途中経過で式の項数が膨らみます。ミスなく一度で計算を終えられる人は稀かも。あるいは、スマートな解法を見逃しているだけかも。
お礼
丁寧なご解説をありがとうございます!! 私が知りたかったことの本質をずばりでご回答いただけました! 材料力学の専門家の方でしょうか?ただただ凄いですね. 本当にありがとうございました.