同様の質問に回答したものを再掲します。
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三省堂明快国語辞典(第7版)に採用されたものですね。他にも誤用とまでは決めつけられないとする国語辞書もあるそうです。文化庁の平成16年度の調査結果発表では、「汚名返上」と「名誉挽回」の二択では、汚名返上が38.3%、汚名挽回は44.1%と、汚名挽回を使う人のほうが多かったとなっています。
ついに国語辞書で「汚名挽回」を正しいとするものが出て来たのか、と思いました。「汚名挽回」が誤用である、「汚名返上」と「名誉挽回」の混交表現であると広まってからずいぶんになります。明快国語辞典の編纂者の調査では、1976年まで遡れたとのことです(『死にかけた日本語』(英潮社))。おそらく、その前から「汚名挽回」誤用説がありました。あったからこそ、はっきり誤用と主張する書籍が出てきたわけです。
今回の辞書編纂の変更は、「汚名挽回」が『本来は』正用であったから、元に戻すといったことのようですが、そんなことはどうでもいいことです。いったん広く「汚名挽回は誤用」という認識が広まったのですから、それは認めねばなりません。ずっと長く、汚名挽回を見たら、名誉挽回や汚名返上と直すように多くの人がいい、言われた側も素直に応じていたのです。
ただ、誤用説の広まりと同時に、擁護説もありました。私が見た範囲では、誤用とされている現状を認めた上で、かなり昔から、それも頻繁に「汚名挽回」が使われ続けていることから、もう誤用とするのはやめよう、といった趣旨のものばかりでした。
そう言われても、うかつに「汚名挽回」と言ったり書いたりするわけにはいきませんでした。テストなら不正解や減点理由になってしまいます。面接などで言えば、心証が悪くなりかねません。大勢に向かって言ったり書いたりすれば、無教養と誤解されかねません。公式には汚名挽回は使えませんでした。私も決して使わないよう気を付けてきました。
それでも、ある年のある調査例でしかないとはいえ、上記のように「汚名挽回」の方が若干多数派という結果が未だに出てしまうのも、やはり現状です。無暗に否定するわけにはいきません。
このことは、論理では決めにくい面があります。頽勢(退勢、劣勢)を挽回する、という言い方は正しいとされています。頽勢も汚名も悪い方向のものですが、汚名だけ駄目だとするのは難しいでしょう。似たものに、回復があります。元気回復も疲労回復も両方言うし、どちらもおかしいとはしません。
汚名挽回も理詰めで誤用の理由を説明しようとすると失敗します。反論された場合に適切な再反論はなさそうです。あくまでも、大勢が使うにしても誤用という認識は広くあり、公式文書などでは使わないのが普通だから、といった習慣として言うか言わないかを説明できる程度でしょう。議論し始めたら終わりません。泥沼に陥ります。
個々人が自分が使うかどうか、決めるしかありません。ただ、国語辞書編纂者が正しいとまで言い切って、辞書に反映させたのですから、今後はあまりうるさく誤用というのは控えたほうがいいように思います。
P.S.
私個人としては、おそらく今後も自分では「汚名挽回」は使いません。使わないようにずっとし続けて来たので、いつの間にか使えなくなってしまっているのです。
今まで他の人が「汚名挽回」と書いたり言ったりすることに、あまりとやかくは言ってはきませんでしたが、「誤用と思われるから避けよう」くらいのことは言ってきました。今後は、「正用とする人もいるけど」と断って説明するようにしようと思います。
お礼
納得しました。