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細胞培養とウイルス培養に関して。
もの凄い初歩的な質問でしたら、申し訳ありません。 タイトルにもありますが、細胞培養とウイルス培養って何が違うのでしょうか? 私なりの解釈だと、 細胞培養は、寒天培地などの人工培地に、細胞液?を添加して培養するのに対して、 ウイルス培養は、ウイルスを何かの細胞に組み込んで、それを培養するという解釈ですが、どうなんでしょうか? また、細胞培養、ウイルス培養ともに培養ですが、使用器具や操作方法などに違いはあるのでしょうか? 回答いただけるととても助かります。 よろしくお願いします。
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専門家です。 細胞培養というのは、一般的にはシャーレやプレート、フラスコの底面に細胞を単層に付着させ、その上から培地(液体なので培養液)を乗せた状態で行います。 具体的な手順は、培養液に細胞を懸濁させ、それをプレートなりフラスコに入れて静置すると、自然に細胞が底面に付着し、増殖して単層で底面一杯に広がった状態になります。 液体培地で浮遊させたまま培養する細胞など、細胞によっては異なる方法で培養するものもあります。 そのままの状態で培養できる日数には限りがあるので、細胞によっても異なりますが1週間程度で細胞をシャーレ底面から剥がし、再度新しい培養液で懸濁液を作って新しいシャーレに蒔き直す、という作業が必要です。これを「経代(passage)」と言います。その時細胞数は減らすのですが、本当は細胞数をカウントして懸濁液を調整して経代するのですが、まあ横着して「1本のフラスコの細胞を4本に蒔く」というような単純な倍数で経代することの方が多いです(自分で作った初代培養系の細胞を初回経代するときはマジメにカウントしたりすることもある)。 細胞には株化細胞と初代培養細胞に大別できます。株化細胞というのは、ほぼ無限に経代できる細胞で、"販売"されている細胞です。ヒトのガン細胞由来とかサルの腎臓由来の細胞など、多くの細胞が販売されています。 無限に経代できる、とはいっても1つのラボで100代とか経代していると、やはり性質が変わってきたりウイルスに対する感受性が変わってきたりしてしまうので、様子を見ながら古い代の細胞を起こし直したり、場合によっては再び購入したり、といったことが必要になります。 ちなみに、細胞は適当なタイミングで経代するときに余った細胞を液体窒素で凍結しておくのですが、凍結した細胞を融解して再び培養することを「起こす」とか言ったりします。 初代培養の細胞というのは、動物の臓器などを採取してそれをトリプシンで消化し、細胞懸濁液を作って培養するような細胞を言います。 ウイルスの中には株化細胞では培養できず、初代培養細胞でなければ増えてくれないものがあるので、機会があれば作っておく必要があります。 培養しても概ね5~10代くらいまでしか経代できず、また凍結保存してもあまり長期保存は期待できなかったりして、いつでも準備できる状態にするのはなかなか難しいです。 で、ウイルス培養は、単純にそうして培養した細胞にウイルスを含む液を乗せて「細胞にウイルスを感染させる」だけです。この感染させる作業を「接種(Inoculate)」と言います。 具体的なやり方はいくつかあるのですが、基本的な方法は先ほど細胞を培養する手順を書きましたが、細胞懸濁液をプレートに入れて1~3日ほど経つと、底面に付着した細胞が増殖して底面一杯に広がった状態になります。 この状態のプレートから培養液を抜き、ウイルス液を薄く乗せます。その状態で1時間ほど静置して"吸着"させ、その後培養液を追加して再び培養します。 既に培養済みのウイルスを接種するときは、ウイルスの力価を最適に調整して接種します。 野外材料を接種するときは、その材料(多くの場合は臓器)を細かく砕いた(ホモジナイズと言う)ものを培養液に懸濁した「乳剤」を作り、それを細胞に蒔きます。 ホモジナイズのやり方はいろいろな方法があるのですが、最もプリミティブなやり方は、乳鉢と摺り子木を使い、手でゴリゴリとすり潰す方法です。 臓器乳剤を作るとき、通常は10倍乳剤というのを作りますが(例えば10mlの培養液に1gの臓器)、臓器中に含まれるウイルスが非常に高力価である可能性があるときは、100倍乳剤だったり1000倍乳剤を作ったりもしますし、それらを全て別々に接種したりすることもあります。どれが最適な増え方をするか判らないときは、段階希釈した乳剤を全て接種する、というわけです。 ウイルスが増えているかいないか、は最も簡単なのが細胞変性効果(CPE)で見る方法です。 多くの細胞は増殖すると感染した細胞を殺すか変成させるので、これだと普通の光学顕微鏡で観察すれば判定できるので楽です。ただし、接種した臓器乳剤に細胞毒性を持つ成分が含まれていたり等の他の要因で細胞が変成する場合がけっこうあるので、CPEを確認した後はきちんとした確認が必要です。馴れればCPEの形状でほぼ判るのですが。 CPEが出ないウイルスの場合は、ブラック形成法とか干渉法など、かなり面倒な手法で確認する必要があります。 野外材料で培養した場合は、増えたウイルスが何者なのかをきちんと同定しないと結論が出ません。 同定する方法は、最近は遺伝子検査(PCR)で手っ取り早く済ませることも多々ありますが、正式にはそのウイルスに対する蛍光色素で標識した抗体(蛍光抗体)を使います。感染させた細胞に蛍光抗体を乗せ、それを蛍光顕微鏡で見るとウイルス抗原が存在する場合は光って見える、というわけです。 この蛍光抗体は市販されているのですが、マイナーなウイルスだったり新発見のウイルスの場合は市販の蛍光抗体がないので、PCRしたり電子顕微鏡で直接観察を試みたり理化学性状検査をしたり、あの手この手で同定に持ち込みます。 上の方で、「経代が進むとウイルスに対する感受性が変わる」と書きましたが、多くは感受性が低下します。どんなウイルスを接種しても顔色ひとつ変えずに平然と増殖を続ける細胞になってしまうことが多く、そうでなくてもちょっと前までウイルスが調子よく増えて高力価のウイルスが回収できていたのに、気がつくとさっぱり力価が上がらない、という状態になることが多いです。 しかし希に、感受性が極端に上がったり、今まで感受性がなかったウイルスに対して感受性を獲得することがあります。 従来は初代培養系の細胞でしか増殖せず、しかもCPEが出ないので干渉法などの面倒な手法を使わざるを得なくて非常に面倒なのであまり研究が進んでいなかったウイルスが、"あるラボ"が飼われている細胞(それもどのラボでも持っているようなありふれた株化細胞)で増殖してしかもCPEまで出る、みたいなことが、たまにですが起きます。 そういう細胞に幸運にも巡り会ったラボの担当は、「○○ウイルスを分離できる細胞系を確立しました」って論文をさくっと書いて学位を取ったりできてラッキーなのですが、そのラボから細胞を分けてもらった他の多くのラボが一斉にそのウイルスを手がけるようになるので、そのウイルスの研究が一気に進んだりします。 元は同じ個体から得られた細胞でも、それぞれのラボで独自に進化していってる、ということですね。
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Jagar39です。 >一言でまとめると、細胞培養の先にウイルス培養があり、技術も多少の違いは有れど、ほぼ共通しているという解釈であってますか? まあ、そういうことになりますね。 ウイルスは細胞の中でしか増えませんから、ウイルスを直接培養することはできません。 つまりウイルスを増やしているのは細胞で、我々は細胞を培養することによってウイルスを増やすことしかできないわけで、その意味では技術的には細胞培養とウイルス培養はイコールです。 ウイルスを培養するときは細胞に感染させる時や回収するときに、それぞれタイミングやちょっとした技術的なことがあるだけで、培養そのものは細胞培養そのもの、ということですね。
お礼
再びの回答ありがとうございます。 詳しく、砕いた解説のお陰で、私の中で曖昧だった考えがまとまりました。また、とても勉強になりました。 ありがとうございました。
お礼
とても詳しく、また分かりやすい解説をしていただき、とても勉強になりました。ありがとうございます。 一言でまとめると、細胞培養の先にウイルス培養があり、技術も多少の違いは有れど、ほぼ共通しているという解釈であってますか?