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化学結合の理解方法
- 化学結合の理解方法について調査しています。高校の化学を理解できていない状態から学んでいますが、共有結合に関してわからない点が出てきました。
- 具体的には、水素原子の軌道を用いてH2分子の分子軌道を考える方法や、電子密度の非負性について理解できませんでした。また、異核二原子分子の分子軌道についても疑問があります。
- 現在は『化学概論』を読んでいるのですが、途中から内容が難しくなって理解が難しい状況です。他の参考書を探した方が良いのか、もしくはロジックのギャップを埋める方法を教えていただきたいです。
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> H_2分子の分子軌道をなぜφ_b=φ_A+φ_B、φ_a=φ_A-φ_Bと考えることができるのか 「考えることができる」というよりは、「とりあえずそんな風に考えてみたらそこそこいい感じの“近似的な”波動関数が手間いらずで求まるよ」というのに近いです。 電子の位置ベクトルをr、水素原子核Aの位置ベクトルをR_A、水素原子核Bの位置ベクトルをR_Bとします。 電子が水素原子核Aのすぐそばにあるとき、すなわち|r-R_A|≪|r-R_B|のときには、この電子は水素原子核Bの影響をほとんど受けないと考えられますから、この電子の波動関数(分子軌道ψ)は、水素原子中の電子の波動関数(1s原子軌道)によく似たものになると予想できます。数式で書けば ψ(r) ∝ φ_A(r)、|φ_A(r)|≫|φ_B(r)| …… |r-R_A|≪|r-R_B|のとき のようになります。ただし、座標原点に水素原子核があるときの1s軌道関数をχ(r)と書いて、φ_A(r)=χ(r-R_A)、φ_B(r)=χ(r-R_B)としました(『化学概論』での表記とは異なる可能性がありますので確認して下さい)。 逆に、電子が水素原子核Bのすぐそばにあるときには、この電子の波動関数(分子軌道ψ)は ψ(r) ∝ φ_B(r)、|φ_A(r)|≪|φ_B(r)| …… |r-R_A|≫|r-R_B|のとき のようになります。 これらのふたつの条件を近似的に満たす最も簡単な波動関数は、 ψ(r) = C_A φ_A(r) + C_B φ_B(r) のような形になります。C_AとC_Bは(今の段階では未定の)係数です。ロジックを重視する場合は、ここから、C_AとC_Bをどのように決めていくのか?という話につながるのですけど、ページ数や授業時間に制限があるために、入門的な話をするときには省かれることも多いようです。ただし「C_AとC_Bは実数である」という仮定を入れれば、等核二原子分子の対称性を使って、C_A=C_BまたはC_A=-C_Bになることを示すことができます(後述)。 > 上記で、電子密度はそれぞれ二乗すればよいというのもわからず 波動関数の絶対値を二乗すれば、粒子の存在確率密度が得られます。これは量子力学における基本的なルールです。 上で「C_AとC_Bは実数である」と仮定しましたので、分子軌道ψの二乗は、ψ(r)^2=|ψ(r)|^2となって波動関数の絶対値の二乗になりますから、粒子の存在確率密度すなわち電子密度(より正確に言えば、その分子軌道を占めている一電子の確率密度)になります。さらにうるさいことをいえば、ψ(r)^2を電子密度そのものとみなすためには、分子軌道ψは規格化されていなければなりません。C_A=C_B=1またはC_A=-C_B=1ならば、ψ(r)は規格化されていませんから、ψ(r)^2は電子密度そのものではなく、電子密度にある定数を乗じたものになります。 電子密度(にある定数を乗じたもの)と分子の対称性を使えば、以下に示すように、分子軌道の係数C_AとC_Bを決めることができます。 分子軌道が ψ(r) = C_A φ_A(r) + C_B φ_B(r) であれば位置ベクトルがrの点での電子密度(にある定数を乗じたもの)は ψ(r)^2 = C_A^2 φ_A(r)^2 + C_B^2 φ_B(r)^2 + 2 C_A C_B φ_A(r) φ_B(r) になります。一方、位置ベクトルが-rの点での電子密度(にある定数を乗じたもの)は ψ(-r)^2 = C_A^2 φ_A(-r)^2 + C_B^2 φ_B(-r)^2 + 2 C_A C_B φ_A(-r) φ_B(-r) = C_A^2 χ(-r-R_A)^2 + C_B^2 χ(-r-R_B)^2 + 2 C_A C_B χ(-r-R_A)χ(-r-R_B) になります。位置ベクトルの原点を原子核を結ぶ線分の中点にとれば、R_A+R_B=0という関係式が成り立ちますから、上の式のR_Aを-R_Bに、R_Bを-R_Aに置換えることができて、 ψ(-r)^2 = C_A^2 χ(-r+R_B)^2 + C_B^2 χ(-r+R_A)^2 + 2 C_A C_B χ(-r+R_B)χ(-r+R_A) = C_A^2 χ(-(r-R_B))^2 + C_B^2 χ(-(r-R_A))^2 + 2 C_A C_B χ(-(r-R_B))χ(-(r-R_A)) = C_A^2 χ(r-R_B)^2 + C_B^2 χ(r-R_A)^2 + 2 C_A C_B χ(r-R_B)χ(r-R_A) = C_A^2 φ_B(r)^2 + C_B^2 φ_A(r)^2 + 2 C_A C_B φ_B(r) φ_A(r) という式を得ることができます。ただし途中の式変形でχ(-r)=χ(r)という1s原子軌道の対称性を使いました。ここで等核二原子分子の対称性を考えれば、ψ(-r)^2=ψ(r)^2でなければならないことを示すことができます。これをきちんと示そうとすると、対称性についてきちんと学ばないといけないので面倒なのですけど、「点対称の分子なら、電子密度も点対称になるはずだ」ということは直感的には明らかだと思います。あるいはもっとおおらかに、等核二原子分子ならば原子核Aの周りで電子を見出す確率は原子核Bの周りで電子を見出す確率に等しいはずだ、と考えてもいいです。 いずれにせよ、ψ(-r)^2=ψ(r)^2と置けば、2 C_A C_B φ_A(r) φ_B(r)の項が打消し合って C_A^2 φ_A(r)^2 + C_B^2 φ_B(r)^2 = C_A^2 φ_B(r)^2 + C_B^2 φ_A(r)^2 となり、φ_A(r)^2 ≠ φ_B(r)^2から C_A^2 = C_B^2 が結論できます。これから、先に述べたC_A=C_BまたはC_A=-C_Bが得られます。C_A=1としたのは単に教科書の著者の好みの問題で、ゼロ以外の実数ならば実はどんな数字でも構いません。波動関数(分子軌道ψ)にゼロ以外の任意の数を乗じて得られる関数は、もとの波動関数と全く同じ状態を表す波動関数になるからです。 > φ_Aφ_Bがなぜ非負となるのかがわかりません 任意のrに対してχ(r)>0ですから、φ_A(r)φ_B(r)=χ(r-R_A)χ(r-R_B)>0になります。これはφ_Aとφ_Bがともに1s軌道だから使えるロジックです。もし2s軌道なら、あるrに対して波動関数が負の値なりますから、同じロジックは使えません。また、ふたつの2p軌道からπ結合ができるときにはφ_Aφ_Bは正になりますけど、ふたつの2p軌道からσ結合ができるときにはφ_Aφ_Bは負になります。 > 異核二原子分子の分子軌道をφ_b=φ_A+λφ_B、φa=φ_B-λφ_A(λ<1)と書いてあったのですが、どうしてそうなるのか理解できませんでした。 C_Aφ_A(r)+C_Bφ_B(r)の係数C_AとC_Bをどのように決めていくのか?という話がなければ、どうしてそうなるのかを理解するのは難しいでしょう。この辺の話は『化学結合論入門』などの化学結合論の教科書には必ず書いてある話なので、まずはそちらを参照して下さい。 ただ、等核二原子分子の時にはλ=1またはλ=-1になりますから、異核二原子分子の時には|λ|≠1であることは現時点でも理解できると思います。異核二原子分子では、原子核Aの周りで電子を見出す確率は、よほどの偶然がない限り、原子核Bの周りで電子を見出す確率とは異なるはずだ、と考えられるからです。 > このようなロジックのギャップをつなげるにはやはり自力で考えて何とか解決するしかないのか いささか後ろ向きの解決案ですが、ロジックのギャップをつなげるのをあきらめる、というのも一つの解です。図書館などで二三冊教科書を眺めてみて、みな似たりよったりの記述であったなら、今はつながなくていいギャップと考えてそのまま先に進んだ方が効率がいいと思います。 > どの本がよいのか(できれば大型書店においてあるもので) 『化学概論』などの一般化学(大学の一年次にならう教養の化学)の教科書は、本来は、全体像をおおざっぱに把握するために使われる教科書ですから、化学結合論をていねいに学ぶのには向いていません。とくにロジックのギャップが気になる人には合わないと思います。 『化学結合論入門』(高塚和夫、東京大学出版会)は、ていねいに読む価値のある良い本だと私は思います。この本と似たようなレベルのものとしては [1]大野公一「量子化学」岩波書店 (1996). http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocDetail?txt_docid=NCID%3ABN14534177 [2]藤永茂「入門分子軌道法 : 分子計算を手がける前に」講談社 (1990). http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocDetail?txt_docid=NCID%3ABN04307689 をすすめます。 ロジックのギャップをつなげるために、量子論までいったん戻ってみる、というのも一つの手かもしれません。 [3]清水明「量子論の基礎 : その本質のやさしい理解のために」サイエンス社 (2004). http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocDetail?txt_docid=NCID%3ABA66765545 あと、大学の一年次で使う線形代数学の教科書は結構役に立ちます(一次結合、行列式、固有値など)。解析学(微積分学)の教科書はそれほどでもないです(重積分や偏微分などは化学結合論の教科書に書いてある分だけでほとんどカバーできる...んじゃないかと思う)。
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- ORUKA1951
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波動関数は、以前は高校でも指導されていましたが、現在の高校では全く触れられていない部分です。 そのため、なかなか良い教科書がない部分です。 大学の無機化学の教科書を読むのが一番早いでしょう。 Amazon.co.jp: 絶対わかる化学結合 (絶対わかる化学シリーズ): 齋藤 勝裕: 本 ( http://www.amazon.co.jp/%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%B5%90%E5%90%88-%E7%B5%B6%E5%AF%BE%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E5%8C%96%E5%AD%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E9%BD%8B%E8%97%A4-%E5%8B%9D%E8%A3%95/dp/4061550519/ref=pd_sim_b_3 ) Amazon.co.jp: 無機化学 (上): ヒューイ, 小玉 剛二, 中沢 浩: 本 ( http://www.amazon.co.jp/%E7%84%A1%E6%A9%9F%E5%8C%96%E5%AD%A6-%E4%B8%8A-%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A4/dp/4807902369/ref=sr_1_15?ie=UTF8&s=books&qid=1267880127&sr=8-15 ) あたりかな?
お礼
ORUKA1951さん、2点ご紹介いただきましてありがとうございます。 概要やAmazonのレビューを読む限り、今ぶつかっている壁を突破するには前者が自分のニーズに合っていそうな気がしますので早速あたってみようと思います。もしかすると後ですぐ後者が必要になるのかもしれませんね。
補足
『絶対わかる化学結合』を早速購入して読み始めています。 第4章分子軌道法の途中まで(全体の3分の1くらい)読みましたが、第1章から内容がほどんど理解できません。困りました。 「読んでいるうちにわかってくるかも」と根拠のない期待感をもって、まだ読み始めたばかりなのでもう少し粘ってみます。
お礼
101325さん、とても丁寧な解説をいただき、ありがとうございます。 恥ずかしながら、当方、物理は高校で習った分以外では大学の教養課程で力学を少しやった程度で、ましてや量子論は全く勉強したことがありません。 『化学結合論入門』を途中まで読んでみて、シュレーディンガー方程式がこんなところに使われているのに驚き、量子論が化学の基礎に使われているらしいと初めて気づいたくらいです。 101325さんのご説明のお陰で、H2分子の分子軌道でわからなかった点が何なのかはっきりしてきました。線形結合で表される理由がわからなかったみたいです。線形結合になるということを前提にすれば、同核でも異核でも考え方は同じであるというのと規格化のところもすんなり頭に入ってきました。量子論の世界とヒルベルト空間の世界との間の翻訳ができれば理解できるような気がしてきました。 また、密度の部分では、なぜ複素数なのに実数のように扱うのかがどうやらわかっていなかったようです。昔、物理では自己共役作用素しか考えないと(数学側で)聞いていたのとストーリーがつながってきそうです。何をヒルベルト空間と考えているのかまで自分の中でまだわかっていませんし、(解説いただいた)波動関数たちの空間に入る位相群の構造がどんなものなのかわかってないので、量子論を知らずに理解することはできないらしいと思いました。ご紹介いただいた3点の本を当たってみたいと思います。