肺炎球菌など一部の細菌は、外部から物質としてのDNAを取り込む能力があります。栄養にする訳ではないと思いますが、とにかく取り込みます。
取り込んだDNAは多くが分解されます。
(異種のDNAを排除する仕組みが「制限酵素」というシステムです:長くなるので後述)
しかし、肺炎球菌自身がもつゲノムとよく似ている場合に限り、相同組み替えというシステムによってゲノムDNAと外来DNAが入れ替わる現象が起きます。
S型もR型も同じ肺炎球菌という生物種ですので、かなり低いものの、一定の確率でDNA組み換えが起こり、外来遺伝子が導入(形質転換)されます。
アベリーの実験の巧妙なところは、R型のDNAと生きたS型を混ぜ、マウスを一種のフィルターに使った点にあります。
マウス内ではR型の方が生き残りやすいので、かなり低い確率で遺伝子組み換えが起こっているもののポピュレーションとしてはかなり少ないR型のみを増幅し、生き残りにくいS型を排除しました。結果として、観察がしやすかったわけです。
ちなみに異種族間でも形質転換はおこしますが、タンパク質の発現には発現を制御するタンパク質、折り畳みをするタンパク質など、いろいろな因子がからんでいるので、きちんと機能するのはなかなか難しいと思います。同種間でやりとりするのが一番スムーズです。
さて、「制限酵素」は遺伝子工学でDNAを切り貼りする時に使われるツールですが、そもそもは他生物種のDNAを排除する仕組みです。
制限酵素には認識するDNAが厳密に決められており、たとえばEcoRIという酵素は
5'- GAATTC -3'
3'- CTTAAG -5'
という2本鎖DNA配列を認識し、
G AATTC
CAATT G
という具合に切断します。
EcoRIは大腸菌が持つ制限酵素ですが、大腸菌自身のゲノムに存在するGAATTC配列は切断されないようになっています。
具体的に言うと、Cの部分にメチル化という修飾がされており、制限酵素から保護されているためです。
というわけで、外来DNAを見分けている、というよりは、外来DNAを排除する仕組みをもっている、という言い方があっています。
お礼
回答ありがとうございます。 >、「制限酵素」は遺伝子工学でDNAを切り貼りする時に使われるツールですが、そもそもは他生物種のDNAを排除する仕組みです 大変参考になりました。 ありがとうございます。