「薬師寺」という固有名詞の寺院は沢山と言えるほどないのではないかと思います。
「薬師寺」とつくのであれば、天武天皇が発願した奈良の西ノ京にある法相宗の本山か、橿原市の「本薬師寺」、あるいは「新薬師寺」(これは華厳宗で「薬師寺」とは別もの)ぐらいが主なものでしょう。
また今は廃絶してありませんが、かつて栃木県河内郡には、同じく天武天皇の時代に建立された「薬師寺」がありました。奈良の東大寺などと並んで正式な僧侶になるための授戒をできる日本三戒壇のひとつで、歴史上大きな意味を持った寺のひとつです。
もちろんこの他にもあることはあるのでしょうが、例えばどこにでもある「観音寺」などといった名前に比べて、沢山と言えるほどはないでしょう。
恐らく先に挙げた勅願の官寺や大寺の威光が強すぎて、一般の寺院は薬師寺と名をつけることははばかられたでしょう。(もちろん、薬師信仰が盛んだった頃は“一般の寺院”といってもほとんどないのも事実ですが)
ただ現在、寺名ではなく「薬師如来」を祀る寺、という意味ならば無論沢山あるでしょう。
薬師如来の別名である瑠璃光如来や医王という名前にちなみ、「瑠璃寺」あるいは「瑠璃光寺」、「医王寺」などという名の寺であれば、宗派を問わずに多くあります。こういった名前の寺は、現在の本尊であるかどうかは別として、まず間違いなく薬師如来を祀っているはずです。