「現代仮名遣い」の「前書き」の1には
この仮名遣いは、語を現代語の音韻に従って書き表すことを原則とし、一方、表記の慣習を尊重して一定の特例を設けるものである。
とあり、また4には
この仮名遣いは、主として現代文のうち口語体のものに適用する。原文の仮名遣いによる必要のあるもの、固有名詞などでこれによりがたいものは除く。
とあります。
この原則に従えば、文語体の文章はどうすべきかが、曖昧になっています。
学校で出された問題は、こうした現代仮名遣いにこだわらず、学習の一環として「どう読むか」を教えるためのものと理解しておきましょう。
国語史の上で、「む」という助動詞は少なくとも平安時代の頃には「む」としか表記されませんでした。「ん」という文字がまだ使用されていなかったからです。「なるめり」という語句が変化して「なんめり」と発音していたものが「なめり」と表記されていたのも、そういう事情があったからです。以後「ん」が使用されるようになっても、歴史的仮名遣いでも、「む」・「ん」の間で表記が揺れていたと考えられます。「向かひゐたらむ」という語句は「徒然草」で見たような気がしますが、それなら「む」を「ん」と読んでいた可能性はあります。
この表記と発音の「揺れ」は、近代に至っても残っていたようです。
教育勅語(明治23年10月30日)の一部
朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ
第一通常議会開院式ノ勅語(明治23年11月29日)の一部
朕又夙ニ各国ト盟好ヲ修メ通商ヲ広メ国勢ヲ振張セムコトヲ期ス
このように、公式の文章においても「ン」「ム」の揺れがあったのですから、どちらも正しいというべきかも知れません。しかし、この勅語の場合は言うまでもなく、「徒然草」の文章でも「ん」が正しいとわたしは思います。「現代仮名遣い」では「む」を「ん」と表記するなどの事柄には触れておらず、これは「現代仮名遣い」上の問題ではないことは、最初にことわったとおりです。
補足
地方の模擬試験です。解説はありませんでした。