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不活性電子対効果とは
不活性電子対効果とはどんなふうに理解したらよいのでしょうか? 今のところ、1対のs電子が失われたり、共有結合の生成に寄与することを妨げるように、とくに4,5,14,15族においてみられる効果としか理解できていません。(n-1)p,(n-1)d,(n-2)f電子などに比べns電子が内殻に貫入することで、ns電子に対する内殻電子による遮蔽効果が小さいため、ns電子が比較的安定している結果生じる効果ということでしょうか? そもそも貫入とは何でしょうか?動径分布を比較すると内殻電子の存在確率が最大の位置よりも内側にns電子は若干大きな存在確率をもつために、s電子は核電荷を感じやすく安定になるということでしょうか?でも、ns電子のエネルギー準位は内殻電子のそれより高いんですよね… 核電荷を感じやすいなら内殻電子と同等のエネルギー準位かそれ以下にならないとおかしい気がしますが、どうでしょうか? 結局、s電子が酸化や結合などで奪われにくいのは結局どう理解したらよいのでしょうか?
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ANo.2に誤解を招く表現があったので、まずそれをお詫びして訂正します。 × 6s電子は5s電子よりも不活性になります。 ○ 第5周期の元素よりも第6周期の元素の方が、不活性電子対効果は大きくなります。 すみませんでした。 (1) 相対論効果を生じさせる電子がもともと存在する軌道とその加速過程などはどのようなものか? 以下に箇条書きで示します。 ・1s電子の速さは、原子番号Zに比例して大きくなる(v/c ~ Z/137)。 ・電子の速さが光速に近づくと電子は重くなるので、原子番号が大きくなると1s電子の質量が大きくなる。 ・原子軌道の半径は電子の質量に反比例して小さくなるので、1s電子の質量が大きくなると1s軌道が収縮する。 ・L殻、M殻などの外殻電子の速さはK殻の1s電子の速さに比べてきわめて遅いので、上で述べた相対論効果は(第1近似では)無視できる。 ・無視できるのだが、1s軌道が収縮すると2s, 3s, ... ,6s軌道も収縮しなければならない。なぜならこれらの軌道は1s軌道と直交しなければならないからである。 (2) 重原子でみられる相対論効果による安定化、不安定化する軌道が同時に存在するという解釈は正しいか? 正しいです。(1)で述べたようにs軌道は安定化します。詳しい計算によるとp軌道も程度は小さいですけど安定化します。一方d軌道とf軌道は不安定化します。s軌道とp軌道が収縮すれば、d電子とf電子への遮蔽効果が大きくなるからです。 (3) (2)が正しいという前提で、安定化と不安定化エネルギーはキャンセルされるか? 「原子内でエネルギーは一定」という意味でしたら、キャンセルはしません。 (4) (2)と(3)が正しいという前提で、実際重原子ではそれらの軌道のエネルギー準位の関係はどうなっているのか? 超重元素でどうなるのかは知らないのですけど、Au~Biでは、原子軌道のエネルギー準位が入れ替わるほどではない(はず)です。 参考文献 [1] J.Barret, 原子構造と周期性 pp. 81-84, 化学同人 (2004). http://www.kagakudojin.co.jp/library/ISBN978-4-7598-1006-6.htm [2] N. Kaltsoyannis, J. Chem. Soc., Dalton Trans., pp.1-11 (1996). [3] P. Pyykkö, Chem. Rev. 88, pp. 563-594 (1988).
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- 101325
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> と自分の言葉でまとめてみましたが、どうでしょうか? よろしいのではないでしょうか。って上からものを言ってますね、私。すみません。 > 条件2のもととなる波動関数の分布の違いは条件1のもととなる相対論効果に内包されているでしょうか? その通りです。内包されています。 ANo.3の参考文献[2]によると、条件1のことを direct relativistic orbital contraction、条件2のことを indirect relativistic orbital expansionと呼ぶらしいです。理屈は以下のとおりです。 ・例えば3d軌道にある電子は、3s軌道と3p軌道にある電子(およびK殻とL殻にある電子)から遮蔽を受けている。 ・ここで何らかの理由により、3s軌道と3p軌道の軌道半径が少し小さくなれば、3d軌道にある電子の受ける遮蔽は少し大きくなる。 ・というのは、軌道半径が小さければ小さいほど、原子核の電荷をよりよく遮蔽するからである。 ・3d軌道にある電子の受ける遮蔽が少し大きくなれば、3d電子の感じる有効核電荷が少し小さくなるので、3d軌道の軌道半径は少し大きくなる。 ・4d軌道や4f軌道なども同じしくみで、軌道半径が大きくなる。 > どちらか一方の波動関数にのみrが収縮したという因子を含めた場合、その積分値がゼロではなくなるということでしょうか? そうです。積分値がゼロでなくなるということは、直交条件が満たされない、ということです。つまり1s, 2s, ..., 6s 軌道に電子があるとき、1s 軌道だけが縮まるのは、直交条件から許されません。縮まるときはみんな一緒に縮まります。 例えばs軌道関数 f(r), g(r) について ∫ f(r) g(r) r^2 dr = 0 という直交条件があったとします。ここで f(r) が縮まって f(αr) になったとします。このとき g(r) が何の変換も受けなければ ∫ f(αr) g(r) r^2 dr ≠ 0 になりますので直交条件が破れます。そこで直交条件を満たすためには g(r) にどのような変換をすればいいのか?が問題になるのですけど、αが距離 r に依存しない定数であると仮定すれば、この問題は簡単に解けます。答えは g(r) → g(αr) です。 ∫ f(αr) g(αr) r^2 dr = 0 変換 g(r) → g(αr) は、軌道関数 g(r) が f(r) と同じだけ収縮することを意味しています。 もちろん本当は、αは距離rに依存しますので、計算はずっとずっと大変で、収縮率も g(r) と f(r) で変わってきます。変わってくるのですけど、まあ大まかな話ということで。
お礼
本当にありがとうございます。全体像が見えてきました。 「相対論効果によって内殻のs軌道の収縮に伴って、波動関数の直交条件を満たすように外側の全s軌道も収縮する。同様にp軌道も若干収縮する。但し、これらの収縮率は一定ではない。これが、軌道に対する直接的な相対論効果による収縮を表している。 また、その収縮による遮蔽効果の増加によって、d軌道やf軌道はより外側に拡大する。これが、間接的な相対論効果による軌道の拡大を表している。」 というわけですね。理解が深まり、本当に助かりました。ご紹介くださった参考文献などで勉強したいと思います。このように意見を交わせたことは、これから勉強をしていく上でとてもプラスにはたらくと思います。もう敵の正体がだいたい分かってきましたから。 本当にありがとうございました。機会があいましたら、また愚問にお付き合いください。
- 101325
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> s電子が酸化や結合などで奪われにくいのは結局どう理解したらよいのでしょうか? 相対論効果によりs軌道が収縮して、s電子のイオン化や昇位がしにくくなるから。という説明はどうですか。 p軌道も同じように安定化されるのですけど、その度合いはs軌道のそれよりも小さいので、s軌道とp軌道のエネルギー差が相対論効果により開きます。相対論効果は原子が重くなるほど大きくなるので、6s電子は5s電子よりも不活性になります。 なぜ相対論効果によりs軌道が収縮するのか、の説明もあったほうがいいでしょうか?
補足
回答ありがとうございます。 「安定化」とは、その軌道を占有する電子のポテンシャルエネルギーがさらに負(核電荷から無限遠の基準0ev)になり、言い換えるとイオン化エネルギーがより大きくなる、という理解でよいでしょうか? こうなると、各軌道のエネルギー準位の関係がどうも分かりません。 相対論効果による軌道の収縮によってsやp電子(主にs電子)による遮蔽効果の増加のため、最外殻付近のd軌道やf軌道に対する有効核電荷は減少し、そのd軌道やf軌道は拡張する。つまり、最外殻付近のd軌道やf軌道を占有する電子のポテンシャルエネルギーがさらに正になる、と思うのですが? でも、この解釈は実際の系には当てはまっているのでしょうか? ちなみに、核電荷が最小の水素原子(Z=1)における軌道のエネルギーを比較すると、6s軌道が5d軌道より不安定でした。 では、タリウムTl(Z=81)の6s軌道と5d軌道のエネルギー準位はどうなっているんでしょうか?水素原子の6s軌道と5d軌道を基準として、Tlでは2電子に占有されている6s軌道がまあまあ安定化し、10電子に占有されている5d軌道がほんのわずか不安定化(あるいは、ほとんど変化なし)するんでしょうか?原子内でエネルギーは一定と考えたので、安定化と不安定化は相殺されるとして、「まあまあ」と「ほんのわずか」とあえて表現しましたが、この考え方は適切でしょうか? そもそも、相対論効果が生じるときの過程はどのようものでしょうか?例えば、外殻のs電子は原子核付近にも若干の存在確率をもっていことから、あるときそのs電子が原子核付近にいたとすると、安定化によるポテンシャルエネルギーの余剰分だけ運動エネルギーに変換(遷移ではないので)され、そのs電子の速度が光速の数十パーセントまで加速される、というような感じでしょうか? 質問事項が多くて申し訳ありません。これまでの質問をまためますと、 (1) 相対論効果を生じさせる電子がもともと存在する軌道とその加速過程などはどのようなものか? (2) 重原子でみられる相対論効果による安定化、不安定化する軌道が同時に存在するという解釈は正しいか? (3) (2)が正しいという前提で、安定化と不安定化エネルギーはキャンセルされるか? (4) (2)と(3)が正しいという前提で、実際重原子ではそれらの軌道のエネルギー準位の関係はどうなっているのか? 結局は(4)が明確に説明できれば、重原子の物性の理解に繋がる気がします。 現在、QNo.3257617の「最大核電荷数」というタイトルで相対論効果と物性の関連に関して議論の途中です。 http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3257617.html?ans_count_asc=20 テーマは共通なので、いろんな方と考えを共有し、それが深い議論になつながると良いと思うので、よろしかければそちらで回答してくださるとうれしいです。お願いいたしますm(_ _)m
このご質問を見て、「タリウムの毒性」を思い出しました。 15族ビスマスもBi^5+よりBi^3+が安定、13族タリウムもTl^3+よりTl^+のほうが安定状態です。 このTl^+が粒の大きさも電荷もK^+とそっくりと言うことがタリウムの毒性になっている、 と聞いた覚えが有ります。 ホウ素族から酸素族の元素は、周期が下になるほどS軌道の電子が結合しにくくなります。 炭素族では、スズまではS軌道の電子が比較的容易に励起しうるためスズは4価で安定して存在しますが、 鉛は不活性電子対効果によりS軌道の電子が励起しにくくなっているため二価が最も安定状態になります。 と、私もここまでの理解しか得られていません。 こちらのページはいかがですか? http://www.kagakudojin.co.jp/special/ryoshi/index08.html 一例として、心筋梗塞の部位を発見するメカニズムなど、かなり詳しく書かれています。 よろしければどうぞ。
補足
回答ありがとうございます。 それらの元素に関する諸物性は以前に私も聞いたことがあります。 linimoさんと101325さんの返事を拝見したとところ、不活性電子対効果の真の理解は相対論効果の理解にあるように思えてきました。核電荷の増加に伴い相対論効果が特にs軌道で顕著に現れるようです。それによるs電子の安定化が、5sや6s電子などを不活性電子対にしているように思えます。どうでしょうか? 現在、QNo.3257617の「最大核電荷数」というタイトルで相対論効果と物性の関連に関して議論の途中です。 http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3257617.html?ans_count_asc=20 テーマは共通なので、いろんな方と考えを共有し、それが深い議論になつながると良いと思うので、よろしかければそちらで回答してくださるとうれしいです。よろしくお願いいたしますm(_ _)m
補足
丁寧な回答ありがとうございました。式の展開やエネルギー準位図などはわからないので、直感的ではありますがかなり理解できたと思います。物性を直感的に理解することを目的としていたので、101325さんの回答は大変参考になりました。 「s電子の中で1s電子の速度が最も光速に近いために、相対論効果が最もみられるのは1s電子に対してであり、そのため1s軌道はかなり収縮することになる。1s電子の速度と比べると他のs電子のそれは大きくないため相対論効果はあまり現れないにも関わらず、各s軌道に対応する波動関数は互いに直交するという条件を満たすために1s軌道の収縮に続いて他のs軌道も収縮する。その収縮に伴いs軌道のエネルギーはより安定化する(条件1)。 また、内殻側への波動関数の分布の程度から、s軌道やp軌道の遮蔽効果の方がd軌道やf軌道のそれと比べると大きい。そのため、第4周期以降の重原子、特に遷移金属において、原子番号の増加と伴にと電子数が1ずつ増加しているにも関わらず、内殻のd軌道やf軌道の遮蔽効果があまり増加しないために、最外殻の電子に対する有効核電荷は若干の増加傾向にある(条件2)。 よって、第6周期の遷移金属中でAuの電気陰性度が比較的大きいのは、相対論効果に伴うs軌道の収縮と内殻のd軌道やf軌道の遮蔽効果があまり増加しないために比較的有効核電荷が大きいために、最外殻の6s軌道が安定化していることに起因している。 また、これらの理由から、水銀が常温で液体であること、Tlが+3価になりにくいこと(第二、三イオン化エネルギーが比較的大きい)、鉛が軟らかく比較的低融点であることなど説明できる。これらは、s電子に対する相対論効果による収縮と内殻電子の遮蔽効果が比較的小さいために有効核電荷が同族、同周期で比較的大きく、つまり5s電子や6s電子に対する束縛エネルギーが比較的大きいことから説明される。」 と自分の言葉でまとめてみましたが、どうでしょうか?訂正などありましたらよろしくお願いします。 ただ、条件1と条件2は互いに独立しているように考えているんですが、もしかすると条件2のもととなる波動関数の分布の違いは条件1のもととなる相対論効果に内包されているでしょうか?相対論効果が根本にあるのではとも思っています… その場合、相対論効果で条件2を直感的に理解できるような説明がありそうでしたら、ぜひお願いいたします。 話題は変わりますが、「なぜならこれらの軌道は1s軌道と直交しなければならないからである」とはどういうことでしょうか?波動関数はエルミート演算子に対する固有関数だから、直交化の操作をそうるとゼロにならなければならないことは知っています。直交する条件を満たすために、軌道が収縮するというのがどうも想像できません。異なる波動関数の積を距離rで0~∞まで積分するときに、例えば、どちらか一方の波動関数にのみrが収縮したという因子を含めた場合、その積分値がゼロではなくなるということでしょうか?その場合、どの項にそのような因子が含まれるのでしょうか?勝手な想像ですが、単純に一方の波動関数中のrをrα(r)(収縮率α:距離rに依存)のように置いたらいいのでしょうか?こちらもよろしくお願いします。 長々と申し訳ありませんm(_ _)m