長くなったので(4)の回答を分けて書きます。
インフルエンザウイルスは元々カモ等の水禽類が自然宿主なのですが、現在ではヒトや豚、馬などそれぞれの動物に適応したものがそれらの動物間で流行しています。
それはNo.4に書いたような「抗原と受容体」の関係で、鳥のウイルスは鳥の受容体に結合しやすく、ヒトのウイルスはヒトの受容体に結合しやすいからです。
また余談ですが、No.4に書いた「ウイルスの分離培養」ですが、鳥のインフルエンザウイルスは発育鶏卵、すなわち「鶏の受精卵」でよく増えます。従って「ウイルス分離」には発育鶏卵を用います。
一方、ヒトのインフルエンザはMDCKという、犬の腎臓細胞でよく増えますので、ヒトのインフルエンザの分離培養はMDCKを用いるのが一般的です。
ヒトのウイルスが発育鶏卵で、鳥のウイルスがMDCKで増えないというわけではないのですが、かなり増えにくいため、例えば今回の宮崎県の発生例のように検査翌日にウイルスが分離されるということはないでしょう。もっと日数がかかるはずです。
インフルエンザウイルスもカモの間で感染を繰り返している間は、それほど増えもせず、カモに病気を起こすわけでもなく、平和に共存しているのですが、鶏という動物はこのインフルエンザウイルスに対して、非常に感受性が強い動物なのです。(つまり受容体が多い?)
なので鶏に感染するとカモの時とは桁違いに鶏の体内で増え、また隣の鶏にも感染していくということになります。ことに鶏は「家畜」であり、密集した環境で飼われているので、隣同士の感染拡大の効率も桁違いですから。
「桁違いに増える」ということは、「ウイルスの世代」も桁違いに増える、つまりウイルスの遺伝子が複写される回数が桁違いに多くなる、ということで、そのうち感染した動物を全て殺してしまうような「狂い咲き」のウイルスが出現してしまうわけです。
これが「高病原性鳥インフルエンザ」に変異するおおまかな筋書きです。
「高病原性」に変異するのは、16種あるHA亜型の中でもH5とH7の2型のみとされています。
さて、それが豚に感染するとどうなるのかというと、豚は「ヒト型の受容体」と「鳥型の受容体」の両方を持っている動物です。
なので、豚には「ヒトのインフルエンザ」も「鳥のインフルエンザ」も、両方感染しやすい、ということです。
一方、インフルエンザウイルスの遺伝子は1本のRNAではなく、8本に分かれています。
なので、1頭の豚にヒトのインフルエンザと鳥のインフルエンザの両方が感染する、もっとミクロに言えば1つの細胞に2種類のウイルスが感染すると・・・
インフルエンザウイルスは、自分が細胞に持って入った8本の遺伝子セットを間違いなく新しいウイルス粒子に積み込むような高度な仕組みを持っていません。適当に積み込んで新しい粒子を作るわけです。
すると、新しくできたウイルス粒子の中の遺伝子セットは、2×8通りのパターンができるわけです。
ま、要するに生体内で遺伝子の組み換えをやってしまうわけです。
そうするとまったく新しいインフルエンザウイルスができてしまう可能性が生じてしまうわけです。
これができてしまうと、ヒトはその新ウイルスに対して免疫を全く持っていませんから、流行し放題になってしまうわけで、病原性もかなり高くなるでしょう。
これが今、恐れられていることです。
これを防ぐには、とにかく鳥でインフルエンザウイルスが増殖することを防ぐしかないわけですね。
なお、こういう突然新種のウイルスができてしまうような変異を「不連続変異」と言いますが、「連続変異」も常に起きています。
毎年流行の型が微妙に変わってワクチンが効かなくなったりするのも「連続変異」です。
また、鳥のウイルスがヒトや他の動物に感染し、十分増殖すると連続変異によっても「ヒトに適合する」ウイルスになり得ます。
例えばヒトに感染しにくい鳥インフルエンザウイルスも、極めて多量のウイルスに暴露することによって無理矢理ヒトに感染した場合、そのヒトで増えたウイルスは「ヒト→ヒト」の感染が容易に起きる型に変異している、ということも起きる可能性があったりします。
それと、「同じヒトにヒト型のウイルスと鳥型のウイルスが同時に感染した場合」も、上に豚で述べたことと同じことが起きる可能性ももちろんあります。
現在のアジアの情勢がかなり危険視されているのは、そういった理由によるものです。「鳥→ヒト」の感染が頻繁に起きている状況は、もう爆弾の導火線に火が点いているも同然の状況だったりするわけです。
お礼
ウイルスというのが増殖するための遺伝子のみを持ち、細胞に寄生(?)して、増殖させるというのは理解できました。 ただ理解がちょっとできなかったので疑問が数個あるんですが・・・ <さらに多くのウイルスは、自然界ではまず起きず実験室内でのみ実現する現象・・・ (1)ここの表現が良く理解できませんでした。 (2)またこの後の文で「ウイルス粒子の中の遺伝子を細胞に感染させる」と仰っていますが、どのようにして感染させるんですか? (3)細胞に感染させた後、ウイルスを細胞に増殖させますが、このウイルスを現在の医療ではどうやって退治しているんですか? (4)それと鳥インフルエンザウイルスの騒動で耳にしたんですが、ウイルスが鳥を経て、豚などの人畜に感染すると変異するそうなんですが、何故変異するんでしょうか? 本当に申し訳ありません。 ウイルスに関する知識が乏しいためこのような疑問が生まれました。 この疑問に答えるのが面倒でしたら無視して結構です。 回答本当にありがとうございました。