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過冷却について
過冷却はなぜ起こるのですか? 現象としの理論は大体わかったのですが、それがエネルギー的にどうなのか、がいまいちつかめません。 教えてください。
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過冷却がなぜ起こるのか?と問われれば、その答えは「融点以下の液相は固相として存在するのが熱力学的に最も安定だが、実際に凝固するためには「核発生」というきっかけが必要だから」という答えになります。 過冷却現象はエネルギー的な安定の観点からだけでは説明できません。動的な成長理論(核発生理論)を考えて初めて説明されます。 エネルギー収支からの検討は「ある温度(と圧力)のもとで、その物質はどんな状態として存在するのが一番安定か」を教えてくれます。例えば氷点下1℃なら「水は固体として存在するのが安定」です。しかし「どれくらいの時間をかけたらその状態に至るのか」は教えてくれません。その状態に1秒で移行するかも知れませんし、1億年かかるかも知れません。 「熱力学的に安定ではないのだが存在できている」例で、一番分かりやすいのがダイヤモンドでしょう。常温常圧における炭素の安定相はグラファイトでありダイヤモンドではありません。ダイヤモンドは本来、常温常圧では存在してはいけない物質なのです。 しかしダイヤモンドがグラファイトに転化するには、とんでもなく高いエネルギー障壁を乗り越えて構造を組み換えねばなりません。この組み換えが起こる確率は非現実的なほどに低いので、事実上常温常圧でもダイヤモンドはダイヤモンドのまま存在できます。 0℃以下になった水も、その安定相は当然に固体である氷です。ところが上記のダイヤモンド→グラファイトの場合と同様、水が氷に変化するにはある障壁を乗り越えなければなりません。実際にはその障壁は大して高くないので水を凍らせるのは別に難しくないのですが、いずれにしても「きっかけが必要」とは言えます。 水に限らず液相→固相の変化において、このきっかけ(あるいは障壁)に相当するのが「核発生」です。核発生理論についてはすでに十分な検討がなされ、学説としては確立しています。 いま液体が融点以下に冷やされて、下の図のように液体の中に小さな固体の粒(核)が発生したとします。この粒は大きく成長できるのでしょうか、それともやがて消滅してしまうのでしょうか。 液体 / ̄\ │固体 │ \_/ この場合のエネルギー収支を考えてみると ・液体が固体になったことによりエネルギー的に得した分(潜熱放出) と ・液体と固体との境界が生じたことによりエネルギー的に損した分 があります。後者のことを「界面エネルギー」などと呼びます。界面エネルギーの概念はややなじみにくいかとも思いますがとりあえずは、異なる相が接している場合にその部分に余分なエネルギーが必要になる、と理解すればよいでしょう。 さて、液体が固体になったことによる自由エネルギー低下分は固体部分の体積、すなわち半径の3乗に比例します。後者は表面積に比例しますから、結局半径の2乗に比例します。これらを差引きして考えると、半径rが大である核ほどエネルギー的に安定であることになります。逆に小さな核はエネルギー的に不安定なため、やがて消滅してしまうことになります。 「小さな核はやがて消滅してしまうのであれば、いつまでたっても核は成長できないのではないか?」 これもおっしゃる通りです。しかし実際には核は生成します。それはどういうことかと言うと、分子は常に離合集散を繰り返しているわけですが、その集合体がたまたま生き残れるために必要な大きさに(確率的に)達したとすると、その先は安定して成長できるようになるからです。 もう少し、数式も取り入れながら説明したいと思います。 いま液相中にnモルの固相が析出し半径rの結晶相(固相)が発生したとします。その場合の自由エネルギー変化ΔG(n)は ΔG(n)=4πr^2 γ-nΔμ (1) と表されます。γは液相-固相の界面エネルギー、Δμは1 molあたりの自由エネルギー変化です。Δμは過飽和度(過冷却度)の関数であり、過飽和度が大きくなればΔμも大きくなります。 析出する結晶相を球形に近似すれば、結晶相のモル体積をνとして ΔG(r)=4πr^2 γ-(4πr^3 Δμ)/3ν (2) と表されます。 (2)をrで微分して0に等しいとおくと、ΔG(r)が極大をとるrの値が r=2γν/Δμ (3) と求まります。 このrの値を臨界半径(臨界曲率半径)などといいr*で表します。これ以上大きいサイズの原子クラスター・分子クラスターであれば、大きくなればなるほど自由エネルギーが下がりますから安定して成長することができます。 Δμを大きくすれば、換言すれば過冷却度を大きくすればr*は小さくなり、確率的なゆらぎで発生した核は小さいものでも生き残れるようになります。よって水の場合、0℃ではすぐに凍らなくとも、-1℃、-2℃と温度を下げればΔμが大きくなり、ついには発生した核が安定して成長し次々と凍ることになります。これが過冷却現象の正体です。 核発生についてご興味があれば参考ページの[1]などもご覧ください。 ついでに、正しい知識について整理しておきましょう。 水を0℃以下の場所に置けばいずれはその場所と同じ温度になるのは確かです。そしてその温度になるのであれば、どれだけ時間がかかろうとも最終的には凍ります。大気圧で0℃以下の環境における水の安定相は、液体でなく固体だからです。「大気圧で0℃以下の環境で、液体の水は平衡状態にはない」なんて当たり前のことを言っているに過ぎません。 過冷却によって0℃以下の水が液体の状態を取りうるのは事実ですが、それは過渡的な現象に過ぎません。「いずれは」と言うなら仮に過冷却がおきようとも、水は最終的に「氷になる」というのが正しい帰結です。過冷却がおきたからといって、0℃以下の環境において水が安定相となることはあり得ません。 また過冷却の水が凍り始めれば確かに潜熱を放出し水の部分の温度は上がります。しかし水の部分の温度が0℃になったからといって凝固が停止するわけではありません。0℃(より厳密に言うなら水の融点)において、水と氷は任意の割合で共存できます。「過冷却状態の水の当初の温度によって、0℃になった時の氷水の氷/水の分量が違ってくる」というのは何かの間違いでしょう。水/氷の系と外界との間にエネルギーのやり取りがないなら分量は変わってきますが、今は「系を0℃に保つ」という条件を付けているのですから、系と外界との間にエネルギーのやり取りがあることは前提となっています。 「-80℃の過冷却状態の水なら、わずかの刺激で全部凍る」というのは間違いではありませんが、「-80℃より高温の過冷却状態の水なら、必ず水の部分が残る」というのは間違いです。上記と同様に外界との間にエネルギーのやり取り(具体的には系からの熱の排出)があるからです。外界とのエネルギーのやり取りがない(完全断熱条件)なら正しいです。 【参考ページ】 [1] 核生成 http://www.jsup.or.jp/shiryo/tenbo.html#h13 「第3章 無容器浮遊溶融プロセシング 資料(2)」のpdfファイルをダウンロードしてお読み下さい。
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補足です。 熱力学的な観点では、G=H-TS ということになり、0℃で氷と水が共存するということは、その温度において、両者の自由エネルギー差が0であり、氷が溶ける際のエンタルピー変化ΔHがTΔSに等しいということになります。0℃ではT=273 (K)ですので、この温度での溶解に伴うエントロピー変化ΔS=ΔH/273ということになります。過冷却状態ではT<273ということですので、ΔHやΔSの温度による変化が小さければ、Tの変化に伴ってGの値は0ではなくなります。これはその状態が平衡状態でないことを意味します。ΔHやΔSの温度変化がないと仮定すれば、ある温度での自由エネルギーが計算できることになります。 なお、-80℃というのはあくまで計算上であり、実際に-80℃の過冷却水が簡単にできるとは思えませんので、机上の空論に近いと思います。
例えば水を0℃以下の場所におけば、いずれはその場所と同じ温度になります。過冷却が起こらなければ、その温度の氷になるはずですが、過冷却が起こればその温度の水になります。 その過冷却水に刺激が加われば凍りはじめるわけですが、水が氷になる時に熱を放出します。その放出したエネルギーのために水(氷水?)の温度は上昇します。 水の温度が0℃になれば、それ以上の凍結は起こらなくなります。したがって、過冷却の程度によって、生じる氷の量は変化し、温度の低い過冷却水ほど、多量の氷を生じることになります。 1グラムの水の温度を上昇させるのに必要なエネルギーが1カロリーであるのに対して、1グラムの水を凍結させる際に発生するエネルギーが80カロリーですので、おそらくー80℃の過冷却水を作れば、ちょっとの刺激で全面凍結ということになるのでしょうが、それよりも高温の過冷却水では完全凍結の前に温度が0℃まで上昇しますので、水が残ることになります。
お礼
ありがとうございます。マイナス80℃と前面凍結するんですね! 質問が不十分でした。。。 自由エネルギーとかの熱力学的観点でどうなるのかが詳しく知りたいのでよろしければお願いします。