同じといえば言えなくもないですが、「その折に」 の方が日常的な行為との結びつきが強いように感じます。「その時に」 は瞬間的な現象でも使えるので、「その折に」 という表現に比べて汎用的であるように思われます。
例として、太宰治の 「葉桜と魔笛」 という作品から引いてみます。
私が、その五、六日まえ、妹の箪笥たんすをそっと整理して、その折に、ひとつの引き出しの奥底に、一束の手紙が、緑のリボンできっちり結ばれて隠されて在るのを発見いたし、いけないことでしょうけれども、リボンをほどいて、見てしまったのでございます。
この 「その折に」 は、「たんすを整理する」 という日常的な行為の最中に発生した出来事を述べています。
また、次の例は芥川龍之介の 「トロッコ」 の1節です。
それから今度はトロッコを押し押し、もと来た山の方へ登り始める。良平はその時乗れないまでも、押す事さえ出来たらと思うのである。
ここで 「その折に」 を使うのは、適当だという気がしない。トロッコを押すという行為が日常的・慣習的なものでなく、その場限りのものであるので、「その時に」 を使うのがふさわしいように感じます。
お礼
ありがとうございました。