物の本によると,ヨーロッパでリンゴが象徴するものは,「大地,全体性,歓喜,不死,性的快楽,豊饒,不和,回春,罪悪,春の先触れ,秋,終わり,死,完結,知恵,欺瞞」などなどキリがないくらいあります。もちろんそれぞれに深い意味があり由来があるのでしょうが,リンゴがこれほど広範な象徴性をもつ大きな理由としては,「古代ヨーロッパにおいて,リンゴが果物の代表だった,あるいはリンゴとは果物のことであった」ということが挙げられると思います。
古期英語で apple といえば,berry(漿果)以外のすべての果物を指す語だったようです。また,フランス語でリンゴの意味を表す pomme は,ラテン語で果物という意味の pomum から来ています。アダムとイブが食べたとされる「リンゴ」も,実際に聖書には「知恵の実」と書かれているだけ,それがいつの間にか果物の代表としての「リンゴ」にすり替わってしまったのでしょう。pineapple だってリンゴとは全然関係なさそうです。
「鹿」の意味の英語 deer は本来「動物」全般を表す語でした(ドイツ語の Tier は今でも「動物」の意味です)。それと同じように,「果物」一般を表す語が,その代表的なものである「リンゴ」だけを表すようになったと考えられるわけです。
ギリシャ神話によく出てくるリンゴや白雪姫のリンゴが,はたして現在私たちが「リンゴ」と呼んでいるものであったかどうか,疑問の余地はあると思います。また,ニュートンのリンゴ,ウイリアムテルのリンゴなどは,それこそ日本でいえば庭の柿の木みたいなもので,そこらへんにリンゴの木がいくらでも生えていたということなのではないでしょうか。調べてみたわけではないので半分以上ヨタ話ですが。