この小説にタイトルを付けてください
父さんと母さんは俺が物心つく前に死んだらしい。それを知ったのは小学五年生の時だった。俺はじいちゃんと二人で小さな家に住んでいた。じいちゃんは俺を育てながらとある高校で用務員として働いている。
「今日カラオケいかね?」
「行く行くー!」
友人から遊びの誘いを受けたら全部応じる。そんな俺には友達も多かった。学校帰りに友人達と遊んで、家に帰ってじいちゃんと夕食を食べながらその日のことを話す。そんな毎日の繰り返しだった。
「たまには仕事手伝え!卒業したらやるんだろ?」
「わかってるよ。でも今日は友達と遊びに行く予定入ってるからまた今度な」
じいちゃんは用務員の仕事を何度も俺に教えようとした。俺はいつも面倒臭くて、背中でじいちゃんの叫び声を聞きながら逃げていた。じいちゃんはそれでも、俺が帰ってくると必ず「楽しかったか?」と尋ねた。
じいちゃんはあまり俺に干渉しなかった。悪い意味じゃなくて、程よい感じに。とりあえず退学にならないようにしろとそれだけ言ってはどんなことも笑い飛ばしてくれた。
----割愛します----
主人公の少年の両親は交通事故で亡くなっています。家族旅行の帰りに車がスリップし、父親は即死、母親は幼い少年をかばって死にました。
その事実は棚の奥で見つけた古いアルバムが、家族旅行の記念写真を最後に終わっていたからです。続きを気にして祖父に聞いた少年はその事実をやっと聞いたのでした。
少年は高校卒業後、バイトをしながら祖父を手伝います。用務員の仕事を覚えつつ、様々なバイトを掛け持ちしていました。
そんなある日、祖父が仕事中に倒れ、入院することになってしまいます。少年は心配しますが、祖父は「たいしたことない」と言い張りました。少年はその言葉を信じていましたが、医師に祖父の脳にガンがあることを知らされました…。
手術をすることもできましたが、成功率70%という半端な数字をみて、少年は薬で進行を止めておくことを選択します。少年は祖父には病名を隠したまま、毎日過ごすことにしました。
ある日、医師から一時退院の許可をもらい、少年は祖父と二人で小旅行に行く計画を立てました。一時退院の際に医師に言われた「たくさん思い出を作っておいで」という言葉のあとに、「最後かもしれないから」という言葉が聞こえた気がしました。
その後も二人で仕事をしながら難なく生活をしていましたが、ある日本当に突然、祖父は倒れてしまいました。すぐに病院へ行き、手術を受けましたが、医師は険しい顔で「できる限りのことはしました。意識はありますからたくさん話しかけてあげてください」といいました。
----本編に戻ります-----
俺達はは個室に移動した。前の時は四人部屋だったが、今回は一人部屋だ。専用の洗面所もある。ベッドもいままでより大きい。
「じいちゃん、前よりだいぶん広いとこになったよ。ゆっくり寝とくといいよ」
「ん…」
小さな返事とわずかな笑みにホッとした。静かに目をつぶるじいちゃんの姿を見ていたら、何故か涙がこぼれていた。目をつぶってしまったじいちゃんが、このまま目を開かなかったらどうしよう…。ドラマで見るような心電図とピッ、ピッ、という音が恐ろしいくらい胸を締め付けた。じいちゃんは眠っている。ばれないように鼻をすすって、涙を拭った。
次にじいちゃんの目が覚めたのは、夕食の時間だった。食事が運ばれて来ると、寝ていたじいちゃんは目を開けた。
「じいちゃん、夕ご飯。食べれる?」
「ああ…」
手術したあとに比べて、ずいぶんと良くなったみたいだ。よかった…これなら、ちゃんと話せる。
「じいちゃん、こないだの旅行楽しかったな」
「ああ」
「また行きたいな」
「そうだな」
「…ごはんおいしい?」
「ああ」
もっと言いたいことがたくさんあったのに、いざ話そうと思ったら全部忘れてしまって、どうでもいい話ばっかりしてしまった。でもまだ意識もしっかりしてるし、話すチャンスはたくさんある。
そして一週間、二週間とときがすぎていく。じいちゃんの様子は相変わらずで、簡単な文章で俺の質問に答えてくれる。まだ、大切なことを伝えてない。今日こそは伝えようと思って病院に入ると、先生に話しかけられた。
「おじいちゃん、今日はずいぶん調子がいいみたいだよ」
部屋にいくと、じいちゃんはベッドに座っていて、俺を見るとにっこり笑った。そして来て一息つくと、ゆっくりと話しだした。
「…用務員の仕事は一人でこなせているか?」
「うん。大丈夫。結構楽しくやってるよ」
「そうか、それなら…よかった。もっとちゃんといっしょに作業したかったんだがなぁ…」
じいちゃんがこんなに話すのは久しぶりだった。学校での俺の様子とか、飼ってる動物の話とか、花壇の話とか…。俺はその話に相槌をうちながら聞いていた。
そしてじいちゃんは眠ってしまった。ゆっくりと寝息を立てながら、静かに、気持ちよさそうに。俺はじいちゃんの手に自分の手を重ねた。
「じいちゃん…ありがとな。いままで育ててきてくれて。俺には母さんも父さんもいないけど、毎日楽しかったよ。幸せだよ。じいちゃんのおかげだ…。」
俺は目をつぶったじいちゃんにこっそりとそう言った。起きてたら照れ臭くて言えないけど、こうやって聞いてくれればそれでいい。じいちゃんを起こしてしまわないように静かに病室を出ると、俺は学校に帰った。
その日の真夜中、二時くらいだった。俺は電話の音で目を覚ました。
「先程…一時五十分に…」
じいちゃんは死んでしまった。先生の声は震えていた。俺が病院へ行くと、すでにじいちゃんは目を開くことはなかった。不思議と涙は出なくて、俺はその死をあっさりと受け入れることが出来た。じいちゃんの担当だった看護師さんが鼻をすすり、先生もずっと険しい顔をしていた。それでも、俺はどうしてか悲しくはなくて、眠っているだけのようなじいちゃんの姿をじっと見ていた。
それからはずっと忙しかった。知っている限りの親戚に連絡をとって、なんとかお通夜と葬式の準備をした。久しぶりに会った叔父さんや叔母さんに大変だったねとか、可愛そうにとか言われたけど、なんて答えたらいいのかわからなかったから、とりあえずそれっぽい言葉を返して笑っていた。葬式が終わってからも、ゆっくり別れを惜しむ間もなく一週間が過ぎた。やっと一段落ついて、俺も仕事に戻ったが、いままでと何も変わらない気がする。
朝は六時過ぎに起きて、自分の準備を終わらせると、校門の鍵を開けて、学校の中を循環する。そのあとは花壇の花に水をやったり、落ち葉を掃いたり。俺はある程度の仕事を終え、ふと家の裏に回った。そこには水の濁った汚い水槽があった。
「うわ汚っ…しかもなんだ、金魚死んでるし!」
ずいぶんと大きな赤い金魚が腹を上に向けて死んでいた。なんで死んでるんだろ…。ていうか、金魚なんていつ…。その時思い出した。俺の金魚だ。高校生の時、友達といっしょに祭りにいった時に金魚すくいの勝負をした。大量にすくってしまった金魚をしばらく育てようとしたがなかなかうまくはいかず、一ヶ月もたたないうちにたったの一匹になった。俺はその金魚をじいちゃんにあげた。もう面倒だからじいちゃんが育ててよって。あの時は自分で買ったんだから自分で世話しろ、なんて怒られたけど、こんなに長く飼ってたんだ…。
「なんで死んじゃったんだろ…」
ああ…そうだ。
いままではじいちゃんが世話をしてたんだ。
じいちゃんがいなくなって餌ももらえない状態で生きていられるはずがない。
じいちゃんはもういないんだから
もう…いない…
俺は改めて気付いた。もうじいちゃんはいない。どこを探してもいない。俺は家族をみんな失ってしまった。俺は本当に一人ぼっちになった。初めて涙がこぼれ落ちた。水槽に落ちて波紋が広がって、腹を上に向けた動かない金魚がかすかに揺れる。そう、この金魚も。失ってしまった命は元には戻らない。当たり前のことなのに、わかっていたはずなのに、いつまでも涙がとまらなかった。
俺には家族が一人もいない。幼い頃に両親を亡くし、唯一の家族であったじいちゃんも数年前に亡くなった。あれから少しずつ昔の生活に戻っていったが、やっぱり仕事場には話し相手もいないからすこしばかり淋しい気もした。
そんなある日、花壇の横に一人の男が座り込んでいた。たぶん俺と同じくらいの歳だろう。こんなに朝早くから…そう思って見ていると、あっちの方が先に俺に気付いた。
「おはようございます。お早いですね」
「えっと、どちら様ですか?」
「俺はここで体育の教師をしています」
「そうだったんですか。俺はここの用務員ですよ」
「用務員…!」
彼は目を丸くした。用務員というとこに反応したらしい。
「じゃあこの花達は、あなたが…?」
「まあ、そうですよ」
男は、目をキラキラ輝かせた
「とても、綺麗ですね」
男はにっこりと笑った。俺の育てた花を眺めて。
なんだかいい予感がする。きっと楽しくやっていけるだろう。
きっとじいちゃんも見てくれてる。もちろん、父さんや母さんも。
なんだか、扉が開けたような気分だった。
長々とすみません。。。
適当でもよいのでタイトルをお願いします!
お礼
早速のご回答ありがとうございます。 手がかりの一端に成った事はとてもうれしいです。 ご指定の書を今秋読んでみたいと思います。 心のもやもやが少し晴れた気分です。ありがとうございました。