「寸法が変化するのにかかる時間」は「寸法が変化し始めるまでにかかる時間」と「寸法変化が完了するまでにかかる時間*1」の2通りの解釈ができますが、ここでは後者を仮定してお話を進めます。
「寸法変化が完了するまでにかかる時間」を求めることは、本質的に「物体の温度分布の時間変化を求める」問題に帰着します。
結論から申し上げますと以下のようになります。
(1)部品の形状と材質、そして熱膨張率と熱伝達率*2が分かれば寸法変化が完了するまでの時間は計算できるのか?
→これだけではできません。最低限、各材質の比熱の値が必要です*3。ほとんどの場合は他にもいくつかの物理量の値が必要です*4。なお熱膨張率の値は、寸法変化が完了するまでにかかる時間の計算には必要ありません。
(2)具体的にはどうすれば計算できるのか?
→よほど単純な形状の部品を除いて、手計算では無理です。コンピュータを用いて、有限要素法により温度分布およびその時間変化を計算するのが一般的な方法です。
(3)温度分布およびその時間変化は分からなくてよいので、寸法変化完了までにかかる時間の目安を知る方法はないか?
→単純形状の部品(例えば平板を積層したもの)であれば「熱時定数」の考えを用いて簡易的に計算できます。この計算に必要なパラメータは(1)で挙げたものと同じです。計算そのものは簡単ですが、熱伝導方程式についての基礎的知識、微分方程式に関する知識(1次応答に関するもの)が必要です。詳しく知りたければ別に質問を立てて下さい。
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以下は補足説明です。必要に応じお読みください。
*1 厳密に言えば、真の定常状態(温度が全く変化しない)に至るまでは無限の時間が必要です。しかしそれは計算上の話であり、現実にはそこまでの一致を考える必要はありませんので、例えば「定常状態での温度分布からの差が0.2℃以内になったら定常とみなす」などと適当に基準を決めて、そこまでの時間を「定常に至るまでの時間(寸法変化が完了するまでの時間)」として取扱うわけです。
*2 「熱伝導率」「熱伝達率」は異なった物理量ですのでご注意下さい。Fu-Aさんが指しているのは「熱伝導率」のことだと思います。
熱伝導率はある材料Aの内部においての熱の伝え易さを表す量です。一方、熱伝達率はある物体Aとある物体Bを接触させた場合の、AからBへの熱の伝え易さを表す量です。熱伝導率は物質が決まれば一つに決まりますが、熱伝達率はその二つの物体の接触状態(介在物、表面粗さ、押し付け圧力など)によって変化する量です。
熱伝導率の単位は[W/m℃]、熱伝達率の単位は[W/m^2 ℃]と、物理量の次元も異なります。
*3 物体の温度分布を求める場合は、一般に「定常状態」「非定常状態(過渡状態)」に分けて考えます。
文字を見ればほとんど明らかですが、前者の「定常状態」は加熱開始から十分に時間が経過し、各部分の温度がもう変化しなくなった状態のことです。「非定常状態(過渡状態)」とは各部分の温度が時々刻々変化するような、例えば昇温中や放冷中の温度分布のことをいいます。実際に計算するにあたっては前者の方が簡単で後者の方が複雑です。今回のご質問の内容は「非定常状態での温度分布計算」に該当します。非定常の温度分布は比熱の値が分からないと求められません。
*4 一般には温度分布とその時間変化を求める必要があります。その計算には
- 流入する熱量および物体内部で発生する熱量
- 境界条件として、どこか1点の温度(温度の基準点)
を知る必要があります。また周囲の空気や冷却水への熱の逃げが無視できない場合、物体の表面・壁面での熱伝達率の値(対空気、対水)も必要です。さらに輻射での熱の逃げも考えなければならない温度であれば、物体表面の輻射率も必要です。
熱伝達率は物質に固有の値というわけではありませんので、自分で実験的に調べなければならない場合も多いことはご承知おきください。