- ベストアンサー
盗犯防止法の一条の適用場面について教えてください
こんばんは。質問があります。 それは、恐喝をしてきて、むなぐらをつかみ、「放せ」と注意されたにもかかわらず、それを無視し、その場から立ち去ろうとした相手を強引にむなぐらをつかんで、その場にとどまらせた者を殺傷した時は盗犯防止法一条は、適用されるのですか。教えてください。
- みんなの回答 (4)
- 専門家の回答
質問者が選んだベストアンサー
- ベストアンサー
結論から言えば、「ケースバイケース」です。盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項が正当防衛の特則であるというのは刑法学上争いがありませんが、正当防衛というのは理論上、違法性阻却事由の一つであり、違法性阻却事由があるかないかは「個別具体的な事情を検討しないと分からない」ところ、設例のような一般的抽象的な事例では到底判断はできません。 最初に質問の状況を整理します。というのは、正直「誰が何をしたかがよく分からない」からです。 そこで以下の状況と勝手に決め付けて話をします。 1.Aは、Bを脅して金銭を巻き上げようと考え、Bの胸ぐらを掴んで「金を出せ」と脅した。 2.これに対してBは「手を離せ」と言ってその場を逃れようとした。 3.Aは手を離さずなおBから金を巻き上げようとした。 4.Bは反撃してAを殺傷した。 さて、本件質問の回答は大前提として、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項1号の「盗犯」とは何かが問題です。「盗犯」に恐喝を含まないのであれば、同条同項の適用は全く問題になりません。 その答ですが正直言えば「分かりません」。一般的には「盗犯」と言うのは「窃盗犯」のことを指しているのですが、本法はそもそも当時増加していた窃盗、強盗対策としてできた法令であるので「盗犯」が強盗も想定しているのは確実です。しかし恐喝を想定しているのかというのは正直な話、文献を調べないと不明です。しかし、今のところその時間がないので「分かりません」ということになります。時間を頂いても調べられる保証ができないので、この点は諒解の程願います。 次に誤解を解消しておきます。 本件設例において「緊急避難は問題になりません」。と言いますか、一般論として「緊急避難に該当して過剰防衛」などということは「刑法理論上絶対にありえません」。 なぜなら、過剰防衛というのは「刑法36条1項に定める正当防衛について防衛の程度が行き過ぎた場合を定めた同条2項に該当する場合」を言い、「刑法37条1項本文に定める緊急避難とはその適用となる状況が異なる」からです。これは刑法学をまともに勉強したことがあれば必ず知っている常識です。ちなみに、緊急避難において限度を超える避難行為は37条1項但書により「過剰避難」となることがあります。 では、正当防衛と緊急避難の違いは何でしょう?一言で言えば、「不正の侵害に対する反撃」が正当防衛。「"不正でない"他人の利益を侵害する」のが緊急避難。つまり、「正対不正」が正当防衛で「正対正」が緊急避難です。相手が不正な侵害をしている本件設例および盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律第1条の適用場面において「正対正」を観念することはできませんから緊急避難など問題になる余地が全くないのです。 そこで、正当防衛が成立するには何が必要かを考えます。 条文上、 1.急迫 2.不正の侵害に対して 3.自己または他人の権利を守るため 4.やむを得ずにした 5.反撃行為 であることが必要です。ここで大前提として、「5.反撃行為」が犯罪構成要件に該当する、つまり、形式的に犯罪を規定する条文に違反することが必要です。そうでない限りはそもそも正当防衛は問題になりません。本件では、相手を殺傷したと言うのですから故意および結果によって「傷害(致死)罪、殺人(未遂)罪、時に、(重)過失致死傷罪」のいずれかの構成要件に該当します。 さてここで盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項が正当防衛の特則であるというのはどういう意味でしょう? それは、同条の状況においては正当防衛の要件の一つである「4.やむを得ずにした」の要件を緩和するということです。本来正当防衛を論じる以上、上記の要件を全て検討しないといけないのですが、それは非常に長くなるので盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項との関係で問題になる「4.やむを得ずにした」の要件の説明だけをしておきます。 この要件は理論上は「相当性」などと言います。つまり、「反撃行為が相当か?」という話です。言い換えれば「反撃としてやりすぎではないのか?」ということです。やりすぎると過剰防衛になります。 ということは、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項が相当性を緩和するものであるのですから、同条が適用になれば「やりすぎても過剰防衛にならずに正当防衛になる」ということになります。この点学説には「相当性の要件を不要とするもの」という説、つまり「どんなにやりすぎても常に正当防衛となる」と考える説もありますが、判例(最決平成6年6月30日など)通説の線では、「やりすぎの程度による。極端にやりすぎればやはり過剰防衛」ということになっています。なおここで「やりすぎかどうか」は「結果によって判断するものではない」というのが判例(最判昭和44年12月4日)です(多少大雑把な言い方です)。つまり、「その侵害に対する反撃行為が反撃として相当かどうか」が問題なのであり、「たまたま運悪く、重大な結果を招いてしまったとしてもそれだけでは相当性を欠くことにはならない」のです。ですから、胸ぐらを掴んでいる手を払いのけたらその際よろけた相手が転んで石に頭をぶつけて死んだとしても「死んだ」から不相当というわけではなく、「手を払いのける」行為が(傷害致死罪に該当するという前提で)反撃として相当かどうかという判断をするのです。 従って、本件設例においては「具体的に相手のどういう行為に対してどういう反撃をしたのかまるで不明」であるので「相当性を論じることはできない」ということになります。当然、「相当性を逸脱しているとして盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項を適用してもなお正当防衛とならない程度の逸脱であるかどうか」も判断しようがないということになります。 次に、盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条2項について簡単に触れておきますと、これは心理的にパニックになった状態での責任阻却を認めたものです。しかし、心理的にパニックになったとしても「現在の危険が存在しないことは認識していた」場合には同条同項は適用になりません。あくまでも「心理的パニック状態で現在の危険がないのにあると思った」場合でなければ適用になりません(最決昭和42年5月26日)。 その意味で同条同項は「誤想防衛に関する特則」です。「誤想防衛」とは上記正当防衛の要件の内「1.急迫」の要件が、傍から見れば存在しないのに防衛行為を行う者が存在すると勘違いしている場合を言います。この場合、正当防衛には絶対になりません。 しかし、時にそれでは防衛行為を行う者に酷なこともあるので、理論上は誤想防衛として正当防衛に類する扱いをすることになります。その理論的な説明は省略しますが、このような誤想防衛が成立しやすくするのが盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条2項ということになります。 なお、これが責任阻却事由である以上、違法性阻却事由と同等に(ある意味それ以上に)「個別具体的事例によって判断する」しかないので、適否はそれこそ「ケースバイケース」としか言えません。 ところでこれは「責任能力」とは別の話です(ちなみに、「自己責任能力」などという概念は刑法学にはありません。なぜなら「責任能力」が行為者自身の能力であるのは当たり前だからです。他人の責任など刑法では基本的に関係ありません)。「責任能力」とはあくまでも、刑法39条あるいは41条に定めるものです。刑事未成年の41条は性質が違うので39条について簡単に言えば、「自分が何をやっているか分かっていて、且つ、その行動を制御できる能力」が責任能力です。つまり、自分が相手に攻撃をしていることが分かり、且つ、その攻撃を止めることも含めて自分の意思で加減できるのかというのが責任能力の問題です。ですから、自分の行為が「現在の危険を排除するためかどうか」ということに関して勘違いした場合である誤想防衛ひいては盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条2項の議論とは全く関係がありません(それが責任阻却事由という意味で同じであるとしても)。 以上を踏まえて、恐喝が強盗になったとして、「現在の危険」があるならば盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条1項は適用になる可能性があります。その場合、「相当性の要件が緩和される」ので多少やりすぎても刑法36条1項の正当防衛が成立しますが、余りにやりすぎると刑法36条2項の過剰防衛となることになります。 そして「現在の危険」がないとしても「パニック状態で現在の危険があると勘違いした」場合には盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律1条2項が適用になる可能性があります(ここで、加えて少々やりすぎたとした場合には同法1条1項も適用になります)。 これ以上具体的なことは事例がもっと具体的でなければ分かりません。
その他の回答 (3)
>盗犯防止法1条1項の「現在の危険」とはどの程度の危険のことを言うのか、相当性判断はどれくらいが相当なのか、は判例をみていくほかはないんでしょうか 一言で言えば、そうです。違法性阻却事由というのが極めて「事例依存な話」である以上、最終的にはそういうことになります。ある程度は類型的に述べることはできますが、究極的にはケースバイケースです。 もっともこれは「一般的抽象的規定である法律全般について、程度の差こそあれ当てはまる話」ですので、構成要件該当性に比べて、という話でしかありません。構成要件該当性だって限界事例は必ず存在するのであってその限界をどう線引きするかは、判例を見ていかなければ分かりません。もっと言ってしまえば、判例にしても全ての限界事例を網羅していません。その点では最終的には「実際に訴訟になってみなければ分からない」です。それが「法律の限界」であり「法律を表現する言葉の限界」であり「法律を作る人間の限界」です。 ある程度の類型性については、分冊になっているような詳し目の刑法の逐条解説書でも見れば判例を複数挙げて解説してあるのでおおよそは分かります。
お礼
whoooさん、ありがとうございました。 刑法の逐条解説書を読んでみました。判例は、盗犯防止法の1条の適用を抑えているみたいでした。 最後に、whoooさんの詳しい説明は本当に感謝しています。ありがとうございました。
- rokosuke
- ベストアンサー率66% (196/296)
ロコスケです。 回答します。 最初のご質問では、強盗であるとの設定ではありませんでしたが、 今回は、強盗被害を受けた場合ですね。 >行為者恐怖、驚愕、興奮又ハ狼狽ニ因リ 強盗行為というのは、人の所有する物品を制止を振り切って 奪う行為です。 その際に、暴力をふるったり、恐喝したり、被害者に対して 身辺の危険だけでなく、精神的に追い詰めた場合にも、その行為者に 対して殺傷してしまっても罪には問われないと言う意味です。 ですから、強盗被害を受けただけでは、勿論、適用されませんし、 たとえ一瞬であっても自己責任能力が無い状態での行為であるとの 立証が必要になります。 裁判では、その点が争点となるでしょう。 客観的状況と被害者の供述が厳密に精査されるものと思います。 この回答でよろしいでしょうか。
お礼
ロコスケさん、ありがとうございます。 盗犯防止法1条2項は、強盗を受けた相手の供述や客観的状況が大切だと分かりました。 ロコスケさんの回答助かりました。
- rokosuke
- ベストアンサー率66% (196/296)
ロコスケです。 盗犯防止法第一条は適用されません。 適用される内容は条文を読んで下さい。 かなり限定されております。 ご質問は、第三十七条の緊急避難に該当します。 相手からの暴行に対して過剰防衛とみなされるでしょう。 自分を守るための最小限の行動範囲にて認められます。 その場にとどめさす行為に対して、殺傷しなければならない危険が 身に迫った場合は別ですが、ちょっと考えにくいでしょうね。
補足
こんばんは。ロコスケさん、専門家の回答であり、本当にありがとうございます。 まず、今回の件では、緊急避難(刑法37条)は過剰防衛になることは分かりました。 次に、盗犯防止法についてですが、盗犯防止法1条1項1号では盗犯、つまり、強盗犯や窃盗犯ですが、その行為に対して被害者は「現在の危険」が必要と書いてあり、確かに、これでは、今回の件には盗犯防止法は適用されません。 しかし、盗犯防止法1条2項では「前項各号ノ場合ニ於テ自己又ハ他人ノ生命、身体又ハ貞操ニ対スル現在ノ危険アルニ非ズト雖モ行為者恐怖、驚愕、興奮又ハ狼狽ニ因リ現場ニ於テ犯人ヲ殺傷スルニ到リタルトキハ之ヲ罰セズ」とあり、被害者が強盗をしてきた者に対して、現在の危険がなくとも、恐怖とかにより殺傷したときは、不可罰となっているんです。 今回の件は恐喝行為が強盗行為に転じた場合に被害者が加害者を殺傷した場合について聞いてみました。被害者には1条2項が適用されるのでしょうか。 よろしければ、回答お願いします。
補足
whoooさん、回答ありがとうございます。 まず、盗犯防止法の条文の解釈が分かりました。 盗犯防止法1条1項1号は、正当防衛の要件を緩和したもので、相当性判断を正当防衛より緩和したものとなり、具体的な判断には、「その侵害に対する反撃行為が反撃として相当かどうか」が問題であることも分かりました。次に、その2項は、責任阻却自由で、具体的には「個別具体的事例によって判断する」しかないことも分かりました。 つぎに、刑法の正当防衛と緊急避難についてはwhoooさんの言われる通りです。責任能力についても同様です。僕の間違いです。設例についてはwhoooさんと同様です。「盗犯」については窃盗犯や強盗犯のことと有斐閣の法律用語辞典に書いてありました。 最後に、質問なのですが、盗犯防止法1条1項の「現在の危険」とはどの程度の危険のことを言うのか、相当性判断はどれくらいが相当なのか、は判例をみていくほかはないんでしょうか。よろしければ、教えて下さい。