この問題は非常に難しい問題で、かつ良い質問であると思います。質問の事例と類似の事例がないか見てみましたが、最高裁判例ではなく、東京高裁の判例ではありました(東京高裁平成8年12月25日判決)。結論として、この高裁判決の論理からすると、α航空に対する日本の裁判管轄権はないと思われます。私は、非常に悩みましたが、かろうじて日本に裁判管轄権を認めても良いのではないかと思います。
α航空に対して日本の裁判管轄権が認められるためには、α航空に民訴法7条による併合請求の裁判籍の要件が存在していることが必要となります。β航空についてはご指摘のように4条4項、1項により日本に裁判管轄権があります。そして、当該事故は同一の発生原因に基づくものであり、これについてはα航空とβ航空には共同不法行為が成立し、この訴訟は38条前段の共同訴訟に該当するので、α航空については7条による併合請求の裁判籍の要件が存在しているということができます。
しかし、α航空にはそれ以外には裁判籍が認められません。普通裁判籍はもとより不法行為地の裁判籍、航空機の所在地の裁判籍なども日本にはないからです。そこで、併合請求の裁判籍の要件が存在していることのみをもって、日本の裁判所において裁判を行うことが、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期する上から妥当かどうかです。この点、前記東京高裁の判例は、おのおのを詳細に検討して、結局、その事件の場合には、日本の裁判所に裁判管轄権を認めるべき特段の事情がないということで否定されています。ご質問の事案の場合、具体的なことは不明ですが、挙げられた事情だけから判断するとかろうじて日本の裁判管轄権は肯定すべきだと思います。それは、被害者たるАが搭乗していたのがβ航空ではなく、α航空だからと思います。もし、Аが搭乗していたのが、β航空であれば、全く無関係(事故は日本ではないし、被害者も自己の飛行機に搭乗していない。)なのにたまたま共同不法行為者が日本に営業所を有していたのに日本で裁判を強いられるのは公平ではありませんが、被害者がα航空の搭乗者である日本人であることと、民訴法7条により日本に裁判管轄権を認めても公平ではないとは言えないと思います(尚、前記高裁の判例は、国際司法判例百選=2004年7月発行p162,163を参照して下さい。参考文献も掲載されています。)。
お礼
詳しい回答、本当にありがとうございました☆ とても参考になりました。判例を探してもう一度勉強してみます☆ ありがとうございました!!