加害者が期待した結果が生じなかったという点で、両者は共通しています。しかし、加害者が意図した行為から想定される結果については両者は大きく異なります。すなわちケースAでは加害者が意図した行為を間違えずに行っていれば被害者の死亡が引き起こされた可能性が高いわけですが、ケースBでは加害者が意図した行為を間違えずにやったとしても何事も起こらなかったと予想されます。
ケースAの場合、何事も起きないという望ましい結果が生じたのは、偶然の結果であり、加害者の行った行為で見れば殺人罪に準じて考えるべきであるということで、これは殺人未遂罪となるわけです。
それに対し、ケースBの場合、そもそも何事も起きない行為を加害者はやっただけであって、社会に対する危険性はケースAに比べはるかに低いと思われます。一般的にはこれは未遂犯とは別に不能犯としてあつかわれます。判例上は、No3さんの書かれた硫黄粉末事件以外に、丑の刻参り事件(明確な殺意を持って、神社の御神木に、相手の名前を書いた紙、ないし髪の毛を入れたわら人形を、五寸釘で打ちつけていっても殺人未遂とはならない。)も有名です。これは、その行為によって人が死なないことが明白な行為は、仮に実行に着手していたとしても、殺人の行為に着手したことにはならないという理屈です。ただ、殺意を持って静脈内に空気を注射する行為は、その行為で人が死亡することは滅多にないにもかかわらず不能犯では無く、社会通念上死亡を引き起こす可能性があるということで、殺人未遂罪とした判例があります。要するにその行為と死亡との因果関係が社会通念上、どの程度認められているかの問題です。仮に、加害者の飲ませたものがオレンジジュースであれば不能犯になるでしょうし、硫黄粉末であれば不能犯ではありますが健康障害の部分は傷害罪となっており、致死量に満たないヒ素でしたら殺人未遂に問われるでしょう。
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