[1] あみだくじと互換の積
あみだくじは平面に描かれますけれども、ここではもっと自由な、立体あみだくじを考えます。すなわち「n本のうんと長い縦棒に番号1,2,…,nが付いている。これらの縦棒がみんな鉛直に立っていて、その水平断面を見ると円周上に並んでいる。そして、いろんな高さにおいて、縦棒のうちの二つj, kを水平な線分で結んである」というものです。
「j番目とk番目を入れ替える水平な線分」を意味する(j, k)は、数学では「互換」と呼ばれます。
あみだくじを上から順に見て行ったとき、現れる互換を順に並べたものを「互換の積」と言います。たとえば
(1,2)(1,3)(2,4)
のように水平な線分を順番に並べて行くことによって、あみだくじがどういう構造になってるのかを表現できるわけです。
[2] 置換
既に出ている回答にも書かれている「置換」とは、たとえば(1,2,3,4)を(4,3,1,2)に置き換える、というような、番号の順番の入れ替えのことです。いちいち「(1,2,3,4)を」と断る必要はないので、置換は単に(4,3,1,2)のように表します。もちろん、互換も置換の一種ですし、互換の積もまた、ひとつの置換を表しています。というわけで、あみだくじ全体はひとつの置換である、と考えられる訳です。
そればかりか、あらゆる置換は互換の積によって表すことができます。たとえば置換(4,3,1,2)は (1,2)(1,3)(2,4)と表せます。
[3]互換の積が持つ性質
ある置換を表す互換の積は、一通りではない。これが重要なポイントです。互換の積が二つあって、どちらも同じ置換を表しているとき、両者を等号 = で結びます。つまり等号は、「表している置換が同じである」という意味です。
「水平な線分がない(互換がない)」ということも一種の互換だと思って、φと表す事にします。すると、互換の性質として、
(a,a) =φ
φ(a,b) = (a,b)
(a,b)φ = (a,b)
(a,b) = (b,a)
(a,b)(a,b) = φ
(a,b)(b,c) = (a,c)(a,b)
a≠c, a≠d, b≠c, b≠dのとき、(a,b)(c,d) = (c,d)(a,b)
などが成立つことは簡単に確認できるでしょう。つまり、これらの性質を使って互換の積を書き換えても、書き換える前後で、互換の積が表す置換は同じのままです。
また、明らかに
((a,b)(c,d))(e,f) = (a,b)((c,d)(e,f))
なので、互換の積の中の一連の部分だけに注目し、上記の性質を利用してその部分だけを書き換える、ということができます。たとえば
(1,2)(2,5)(1,3)(4,1)
という互換の積において、真ん中の(2,5)(1,3)の部分だけに注目して、これを(1,3)(2,5)に書き換えると
(1,2)(1,3)(2,5)(4,1)
となりますが、この互換の積が表す置換は元と同じですから、
(1,2)(2,5)(1,3)(4,1) = (1,2)(1,3)(2,5)(4,1)
です。
[4] 互換の積を書き換える
あるあみだくじAについて、その一番下の所に新しく(a,b)という互換を追加することを考えます。これは、あみだくじAを表す互換の積
(u,v)…(p,q)(r,s)
の右側に(a,b)を付け加えて
(u,v)…(p,q)(r,s)(a,b)
にするということです。
この互換の積の右端にある(r,s)(a,b) の部分を、上記の性質をうまく使って
(u,v)…(p,q)(m,n)(r,s)
になるように書き換えます。書き換えによって、(r,s)(a,b)の(r,s)が右側に移動し、その代わりに(a,b)が(m,n)に変化したわけです。
次に、(p,q)(m,n)の部分を、同様にして
(u,v)…(x,y)(p,q)(r,s)
になるように書き換えます。すると(p,q)が元通り右から2番目の位置になった代わりに、(m,n)が(x,y)に変化した。
このような書き換えを繰り返して行くと、どこかで上記の(a,b)(a,b) = φの性質を使って二つの互換を消してしまえるかもしれません。もしそうできれば、「あるあみだくじAの一番下の所に新しく(a,b)という互換を追加したもの」という互換の積が表す置換(あみだくじ)は、「そのあみだくじAの中の互換をひとつ取り除いたもの」という互換の積としても表せる、ということです。そして、これは「元のあみだくじの中の、ある横線を消した」ということですね。
お礼
ご回答ありがとうございます。