小麦には連作障害があります。連作障害とは、同じ作物を続けて栽培しようとすると、土壌の成分が偏ってだんだん収穫量が落ちたり、作物が土壌のウイルスに感染して病気になったりする障害のことをいいます。農業史は、連作障害との闘いでした。どうすれば連作障害を回避できるのか。試しに畑を1年休ませて見たらどうか。そんな風に試行錯誤的にいろんな手段が試みられた。そうしたら連作障害が発生しなかったのです。土地をA、Bの2つに分けて、毎年交代に小麦を作付けして、もう片方は休ませる。しかしこれでは遊ばせている土地がもったいないし、生産性が悪い。遊ばせるくらいなら牧草を育てて牧畜でもしたらどうか。そういう風に土地を有効活用するアイデアが生まれた。この手法を輪作といいます。もう少し生産性を向上させるやり方はないか。現代では、もう少し複雑なローテーションで土地を回していますが、基本的には輪作が連作障害を回避する手法として残ったわけです。こうして小麦が主食の地域では肉も食べている。そうでないと人口を養っていけなかったわけです。
もう一つ大きな理由がある。それは小麦に含まれるたんぱく質はアミノ酸のバランスが悪いということ。小麦には含硫アミノ酸が少ないという問題がありました。たんぱく質は、数多くのアミノ酸が連結した高分子有機化合物です。アミノ酸には20種類ほどあるのですが、このうち硫黄を含むアミノ酸を含硫アミノ酸というのです。人体はたんぱく質を食べて、アミノ酸に分解して、再び用途に応じてたんぱく質を合成するといったことをしています。アミノ酸は部品に、たんぱく質は製品に例えることができます。ところが設計図で指定された部品が足りないと、他の部品がいくら余っていても製品を組み立てることができない。そうして病気などの不調を招いてしまうのです。この小麦のたんぱく質の問題を解決するために肉のたんぱく質がどうしても必要だったのです。古代・中世・近世・近代には栄養のことはほとんど解明できていませんでしたが、経験則的に小麦だけじゃ調子悪い。小麦も肉もどちらも必要だと人間は知っていました。
では日本はどうなのか。水稲には連作障害が発生しなかったのです。なぜなら毎回、水を入れ替えていたから、連作障害の原因となる問題点を回避できていたのです。稲は世界最強の生産性を誇る作物です。稲を栽培できるなら、それに越したことは無い。しかし稲を栽培するには土壌、気象、水利に要求する条件がじつに贅沢なんです。つまり恵まれた地域でしか稲を栽培できないのです。稲を栽培できなかった、可哀相な地域では小麦が栽培されているといったことです。
詳しく説明しだすと一冊の本になるので、回答はここまでとさせてください。キーワードは「連作障害」と「たんぱく質」です。後は質問者さん御自身で調べてみてください。
お礼
水稲との比較でいっそうよく分かりました。キーワードは「連作障害」と「たんぱく質」ですね。 詳しい解説をどうもありがとうございました。