化学を学びはじめた最初の段階では,「覚えるしかない」というのが私の考えです。
例えば塩酸と水酸化ナトリウム水溶液の反応の化学反応式を書くとき,塩酸,水酸化ナトリウムの化学式は知らないと書けません。したがって,化学式を覚えておく必要があります。
塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えると,中和反応が起こり,塩化ナトリウムと水を生じるという実験事実があります。
したがって,
HCl+NaOH→NaCl+H2O
であり
HCl+NaOH→NaH+HClO
ではありません。
後者の反応式も原子の数は両辺で合っていますし,NaH,HClOは高校の教科書にも載っている物質です。しかし,実際に塩酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えた時に起こる反応の化学反応式ではありません。
また,酢酸CH3COOHと水酸化ナトリウムの中和反応の化学反応式を書けという問いの正解は
CH3COOH+4NaOH→CNa3COONa+4H2O
ではありません。
CH3COOH+NaOH→CH3COONa+H2O
です。
酸と塩基の中和反応だと指定されても,CH3COOHの場合はCOOHのHのみが酸としてはたらくことを知らないと書けないわけです。
このように,物質を化学式で表すとどうなるか,それがどう反応するかという性質は知らないとわかりません。
覚えているか,調べるかのどちらかです。
多くの試験などのように,資料を調べて書くことができない場面に対応するには覚えておくしかありません。
「化学は暗記の学問ではない。考えることが大切だ。」という意見を聞くことがあります。しかし,この意見を初学者が真に受けて覚えることをおろそかにしてはいけないと思います。これが当てはまるのは,基本的な知識を身につけた(=覚えるべきことを覚えた)上で,物質の性質や反応に多様性と共通性があることを理解できた段階からだと思います。
学びはじめの段階では,教科書に出てくる物質の性質,反応などを覚えつつも,「すべてを個別に覚えるのは大変だ,共通性に注目して分類したら楽はできないか」という意識を持って勉強するのがよいと思います。