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モジュレーションドープについて
以前、電子物性関係の講義で、モジュレーションドープの原理について述べられていました。しかしもともと化学の分野の人間であり、現在半分趣味で他学科の講義を受けているため、さっぱり分かりませんでした。 なにか良い参考書となるものがあれば教えてください。 さしあたって、モジュレーションドープについても説明いただけるとありがたいです。
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電子物性の分野は、電気電子を専攻にしている人でも取っ付きにくい部分がありなかなか難関です。 ただ化学専攻の方でも、量子力学や原子の結合といった知識をお持ちの方であるなら、他の分野の専攻の方よりアドバンテージありだと思います。 さてモジュレーションドープ(変調ドープ)を理解するには、最低限以下の知識が必要です。 ・半導体とは何か、シリコンやゲルマニウム ・ドーピング、P型半導体とN型半導体、キャリア、自由電子と正孔 ・バンドギャップ、バンドダイヤグラム、移動度 kuwamanmaさんは既にこれらの基礎知識はお持ちかと思いますが、もし不明な点があれば参考ページ[1]などでもう一度ご覧になることをお勧めします。 さて本件に関してはちょうどピッタリの資料がありました。参考ページ[2]から講義資料の"Chap3-1"をダウンロードしてお読みください。以下の説明はこの講義資料での対応ページや図を示しながら進めたいと思います。 既にご存じの通り半導体は一般にシリコンやゲルマニウムなどの結晶からなっています。またガリウムヒ素(GaAs)やインジウムリン(InP)などの化合物半導体もあります。GaAsやInPは2種類の元素から成りますが、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)のような3種類の元素やそれ以上の種類の元素から成る半導体もあります(P. 17、多元素半導体)。 少し細かい話に成りますが、例えばAlGaAsではAlとGaの比をいろいろと変えることができ、それに応じて半導体の特性(主にバンドギャップ)を制御することも可能です。 さて半導体を素子として使うためには「ドーピング」と呼ばれるプロセスが必要です(P. 16、不純物添加)。これは例えば、純粋なシリコン結晶の中にほんの少しだけ異種の元素を入れ、P型やN型の半導体をつくり出す作業です。入門書などでは「シリコン結晶の中にリンを入れると、最外殻に5つの電子を有するリンは一つの電子を放出してその電子が自由電子となります」と説明されていると思います。 入門書では説明はここで終わっていると思いますが、では残ったリンはどうなっているのでしょう。電子を一つ放出したわけですからイオン化しているわけで、その原子核の位置に正の電荷があるのと等価になります。このイオン化したリンの近くを電子が通りかかると、正の電荷の存在により軌道が曲げられます。すなわち散乱されるわけです(P. 15、イオン化不純物散乱)。 このような散乱(不純物以外の原因による散乱を含む)は半導体素子の動作上はあまり好ましくありません。 さていま電子を電界の中に置いたとしましょう。散乱が全くないのであれば電子は電界でどんどん加速され速度は無限に増してしまいます。しかし実際には散乱があるのである速度で頭打ちになります。単位の強さの電界に電子(または正孔)を置いたときの上記の限界速度のことを「移動度(mobility)」といいます。 半導体素子を高速で動作させるためには移動度は高い方が好ましいのです。しかし半導体素子として動作させるためには必ず不純物を加えねばなりません。しかし不純物を加えると不純物散乱が生じ、移動度を下げてしまうというジレンマが生じます。 このジレンマを巧みに解決した方法の一つが変調ドーピングです。(P. 19、ヘテロ接合への不純物ドーピング) 変調ドーピングは「場所によってドーピング量を変化させる」ことを意味します。 今、バンドギャップの大きさの異なる2種類以上の半導体、例えばAlGaAsとGaAsを交互に積層させます。バンドギャップが異なるために界面ではエネルギー準位の不連続が生じるのですが(P. 19, Fig. 3-9)、ちょうど雨水が低い方に流れ込むように、電子はエネルギーの低い側の層(この場合GaAs層)の方に溜まります(P. 19, Fig. 3-11)。 実際に素子として動作させる場合は画面(紙面)に垂直、言い換えれば積層の面内方向に電子を流すのですが、この場合電子はほとんどGaAs層内で流れ、AlGaAs層にはほとんど流れません。そこで自由電子を供給させるための不純物はAlGaAs内にのみ供給し、GaAs層内には不純物を入れないようにすれば、必要な自由電子を供給できかつ不純物による自由電子の散乱を避けることができます。 この原理を用いたのが高電子移動度トランジスタ(HEMT)で、不純物を添加したAlGaAs層と不純物を添加しないGaAs層を重ね、電子がGaAs層内でのみ伝導するようにして不純物散乱の影響を巧みに避けています。 まとめますと ・「変調ドーピング」とは半導体素子内において、場所により意図的にドーピング量に強弱をつけること ・例えば不純物散乱による移動度の低下を避けるために用いられ、その実用例としては高電子移動度トランジスタがある といった辺りになると思います。 [1] 「半導体」-ナノエレクトロニクス- http://www.nanoelectronics.jp/kaitai/semiconductor/index.htm [2] 「電子材料」 http://www.ee.knct.ac.jp/teachers/takakura/zairyo/zairyo.html このページからChapt3-1のpdfファイルをダウンロードして読んでみてください。
お礼
とても分かりやすい説明でした。 参考URLのほうも今後の勉強に活かしたいと思います。 本当に、ありがとうございました